⑦ シエラ・オフィーリア・リン救出


 レベルが上がって素早さの数値も高くなったおかげで、だいぶ足が速くなっているようだ。


 あっという間にザンザス大森林の近くまで移動できた。


「む!」


 前方にいくつか人影を視認できた。


 距離が縮まるにつれてその姿が鮮明になってきた。


 三人の少女が男たちに組み伏せられている。その周りを大勢の男たちが取り囲んでいる。


 少女たちはうつ伏せのため顔は見えないが、一人は耳が長いのでエルフだろう。他の二人は服装から判断するに神官と、和風の剣士か。


 男たちの方はみんな手に斧を持ち、上半身裸で、頭に黄色いバンダナを巻いている。


「こいつら、もしかして黄牙団こうがだんか?」


 この辺り一帯に出没する盗賊団だったな。メインストーリーとは無関係なサブクエストでのみ登場する連中だったが……。


「ふむ。現実になったこの世界じゃ、メインとかサブとかの区別がないんだな。それもそうか。盗賊たちだってちゃんと存在してるんだし、関わるか否かを自由に選べるわけないか」


 などと納得しているうちに、俺は彼らのすぐそばまで迫っていた。


 男たちが俺に気づく。全員がこちらに視線を向けた。


「なんだテメェは?」


 たずねられたので返答する。


「ただの通りすがりの村人さ。お前らは?」

「あ? テメェ、このバンダナが目に入らねぇのか? 俺たちゃ泣く子も黙る黄牙団だぞ?」


 やっぱり、間違いないらしい。


「うわさは聞いたことがある。様々な悪事を繰り返している盗賊たちだってな。略奪に人拐い、それに禁制品の密売なんかにも手を染めているんだろ?」

「なんだよ、詳しいじゃねぇか」


 盗賊の一人がニカッと笑う。口から黄色い歯がのぞいた。


「それで? 今はその女の子たちをさらおうとしてるところか?」

「そういうこった。分かったらとっとと立ち去りな」

「よかったな、小僧。今日の俺らは機嫌がいいんだ」

「なんせ、とびっきりの上玉が三人も手に入ったからよぉ」

「ほれ、見てみろ」


 三人を組み敷いていた男たちが、少女たちの髪をつかんで強引に頭を反らせた。その顔があらわになる。


「なっ!?」


 まず目に入ったエルフの顔に驚いた。


 つり目ぎみの碧眼に鼻筋の通った小さい鼻。この顔のパーツの特徴は、まさか……シエラか!?


 それにこの神官。たれ目で、右目の下にはチャームポイントの泣きぼくろ。ぷっくりした唇。このセクシーさ、間違いない。オフィーリアだ。


 ってことは、この流れからするとこっちの剣士はリンか。彫りの浅い小顔に黒真珠みたいな双眸そうぼうが印象的だもんな。


「へっへっへっ、驚いただろ? こんな美人は初めて見ただろうからな」

「くくっ、きっと競売で他国の貴族様に高く売れるぜぇ」

「よかったじゃねぇか、お嬢ちゃんたち。金持ちに飼っていただけるんだ。一生、食うに困らねぇぞ」

「まあ、どんな扱いをされるかは分からねぇがなぁ。ヤツら変態ぞろいだからよぉ」

 

 盗賊たちの言葉に、みるみる彼女たちが青ざめていく。どんな暴力や辱めを受けることになるのかと想像してしまったのだろう。


 普段は自信満々で勝気な性格をしているシエラでさえ、体を震わせ、涙をポロポロこぼしている。恐怖で声が出せないのか、口をパクパクと動かすばかりだ。


 その口が紡ごうとした言葉は、おそらく『助けて』だろう。


 三人を眺めていると、みるみる頭に血がのぼってきた。


 なぜ彼女たちがこんなところにいるのかとか、そんな疑問は吹き飛んだ。


 自然と体が動く。


 頭でどうするか考えるより先に、俺はそばにいた盗賊を槍で攻撃していた。


「がはぁ!」


 みぞおちに槍の石突きが深く埋まる。


 そいつは一撃で地面に沈んだ。


「クズ野郎ども、さっさと彼女たちを放せ」


 沸騰する感情を抑え、つとめて冷静に命令する。


 盗賊たちは最初キョトンとしていたが、徐々に仲間を倒されたという事実を理解して顔を紅潮させる。


「こ、この野郎!」

「やりやがったな!」

「死ね、コラァ!」


 仲間がやられて激昂した男たちが斧を振り上げる。少しもためらいなく、俺を殺す気で襲いかかってきているのが分かる。


 だが、遅い。


 動きが、まるで動画をスロー再生しているかのようだ。


 彼我ひがの素早さの数値にかなり差があるらしい。


 黄牙団の盗賊たちはEランクの魔物と同じか、強くてもDランクのレッサーデーモンと同じくらいだから、まあこんなもんだろうな。


 と、分析していたところで斧が近づいてきた。


 振りかかってくるそれを右に避け、十分に距離をとってから先ほどと同じように【石突き打ち】を繰り出す。


 敵のHPが必ず1だけ残るようにダメージを調整してくれる技だ。


 盗賊も一応、人間だ。俺は、できれば人を殺したくないからな。


「ぐえっ!」


 攻撃を受けた男は苦悶の表情を浮かべると、ゆっくりと横倒しになった。


 続いて迫って来る二人には俺の方から接近し、それぞれに対して続けざまに槍を打ち込んだ。


「ぐぶっ!」

「うげっ!」


 俺が槍を引いて間もなくすると、二人は同時に斧を落とし、膝からくずおれた。


「ひっ」


 そばにいた男をにらむと、短い悲鳴をあげた。足がピタリと止まる。他の男たちも同様だ。


「もう一度だけ言ってやる。彼女たちを放せ。俺が手加減してるうちにな」


 さもないと命の保証はできないぞ?


 そういう意味を込めた鋭い視線で威圧する。


 そのまま無言で、ずいっと一歩前に出ると、盗賊たちが後ずさった。


「に、逃げるぞ野郎ども! とても敵わねぇ!」


 直後、リーダーらしき体格のいい男が叫んだ。その号令に従って、盗賊たちが脱兎だっとのごとく走り去っていった。







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※次回は再びマルスの話です。ここから彼はどんどん酷い目にあっていくことになります。まあ、彼のゲーム知識不足が原因なんですけどね。

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