⑥ 悲鳴


 商人たちに街へ送ってもらった俺たちは、その街を治める領主様の城へ向かった。村人たちは一時的にそこで保護されているらしかった。


 村人たちは俺たちの姿を確認すると、みんなで無事を喜んでくれた。俺もアメリアも孤児だから、この中の誰とも血がつながっていないのに、まるで我が子のように扱ってくれる。


 いい人たちだ。助けられて本当によかった。


 それに、領主様もいい人だった。村が魔王軍の襲撃でメチャクチャになってしまったと聞くと、建築職人を手配して街に村人たちが住むための家を建ててくれるという。さらに、施工が終わるまでは街の宿屋を自由に使ってくれて構わないと言ってくれた。もちろん、建築費も宿泊費も領主様が負担してくれるんだと。


 聖人かよ。


 自分の仕事を俺に押しつけて定時で帰るような上司とは月とスッポンだわ。


 ただ、食事だけは自分たちでどうにかしないといけないけどな。


 村人たちは街の中でできる仕事について生計を立てるそうだ。まあ、それがいいだろう。街は堅牢な城壁に囲まれてるし、建物は丈夫だし、大勢の兵士に守られているから簡単には攻め落とされないと思うし。


 でも、俺は街では働かずにレベル上げを続けるけどな。やっぱり、自分の身は自分で守れるようになるのが一番だろう。それにお金なら、魔物を倒してドロップした品を売れば稼げるから一石二鳥だもの。幸運値が高いアメリアがいればレアなアイテムが手に入りやすいし、がっぽり儲けられるだろう。

 

 


 ってなわけで俺は、それからもレベル上げに励むのだった。




◆ ◇ ◆




 1ヶ月後―――




「さて、今日も今日とてレベルを上げるか!」


 俺はルンルンと気分良く、スキップしながら街を出た。


 最近、レベル上げが楽しくて仕方がない。


 初めの頃は死にたくないからという後ろ向きな理由でやっていた。


 けれど、作業を繰り返しているうちにだんだんと面白くなってきた。


 だって、努力した分だけちゃんと成果が出るからさ。


 ステータス画面の数値や文字に、明確に自分の頑張りが反映されるんだ。


 元いた世界では、どれだけ努力して頑張って仕事をこなしても、上司からの評価や給料が高くなるなんてことなかったもんな。


 すげぇ虚しかった。やりがいがなかった。マジでクソだった。


 それに比べたらレベル上げは、ちゃんと努力が成果につながるから最高だぜ。


 なんてことを考えながら、俺はEランクの魔物が出現する平原を目指す。


 ちなみに、俺一人だ。アメリアはいない。


 彼女は、今日は行きつけの酒場で働いている。給仕係の子が体調不良で休んでしまったらしく、ヘルプとして駆り出されたんだ。アメリアは人当たりがいいから、こんな感じで色んな人に頼りにされることが多い。


 だからレベル上げが滞っているのだが、まあそれはそれとして、アメリアの給仕服姿がまた可愛いんだよな。それを見たいがために、今日の夕食はそこでとるつもりだ。むふふっ。


 さぁて、いっぱい運動してお腹を空かせて行かなきゃな。







「ふぃ~。そろそろ昼だし、休憩しようか」


 太陽が真上に差し掛かったところで、いったん作業を中断することにした。


 地面に槍を突き立てて、それに寄りかかりながらステータス画面これまでの成果を確認する。



※ ※ ※


エリック

クラス:村人 

種 族:ヒューマン

レベル:50

H P:34/34

T P:30/30

M P:26/26

攻撃力:45

守備力:37

魔 攻:28

魔 防:28

素早さ:35

幸 運:29


装 備:鋼の槍

    皮の胸当て

    木綿のバンダナ

    レザーブーツ


 技 :『刺突』(消費TP:0)

   →敵単体に攻撃力✕1.0の物理ダメージ

    『横薙ぎ』(消費TP:3)

   →射程範囲内の敵全体に攻撃力✕1.0の

    物理ダメージ

    『兜砕き』(消費TP:5)

   →敵単体に攻撃力✕1.5の物理ダメージ

    『二連突き』(消費TP:5)

   →敵単体に二回、攻撃力✕1.2の物理

    ダメージ

    『足払い』(消費TP:5)

   →敵単体に攻撃力✕1.2の物理ダメージ

   →低確率でスタン

    『石突き打ち』(消費TP:5)

   →敵単体に攻撃力✕1.2の物理ダメージ

   →敵のHPを必ず1だけ残す

    『捻転穿』(消費TP:8)

   →敵単体に攻撃力✕1.8の物理ダメージ

    『急所突き』(消費TP:8)

   →敵単体に攻撃力✕1.5の物理ダメージ

   →低確率で即死

    『乱れ独楽』(消費TP:8)

   →射程範囲内の敵全体に攻撃力✕1.5の

    物理ダメージ

    『三連突き』(消費TP:10)

   →敵単体に三回、攻撃力✕1.8の物理

    ダメージ

    『飛燕一貫』(消費TP:10)

   →敵単体に攻撃力✕1.8の物理ダメージ

   →必中


魔 法:『ファイア』(消費MP:3)

   →敵単体に魔攻✕1.2の火属性ダメージ

    『エルファイア』(消費MP:5)

   →敵単体に魔攻✕1.5の火属性ダメージ

    『ウィンド』(消費MP:3)

   →敵単体に魔攻✕1.2の風属性ダメージ

    『エルウィンド』(消費MP:5)

   →敵単体に魔攻✕1.5の風属性ダメージ

    『フロスト』(消費MP:3)

   →敵単体に魔攻✕1.2の氷属性ダメージ

    『エルフロスト』(消費MP:5)

   →敵単体に魔攻✕1.5の氷属性ダメージ

    『サンダー』(消費MP:3)

   →敵単体に魔攻✕1.2の雷属性ダメージ

    『エルサンダー』(消費MP:5)

   →敵単体に魔攻✕1.5の雷属性ダメージ


※ ※ ※



「うむ、だいぶいい感じに仕上がってきたな」


 これならもう、レッサーデーモンが束になって襲いかかってきてもおくれを取ることはないだろう。当初の目的はクリアしたな。……まあ、レベル上げはこれからも継続するけどさ。だって楽しいし。


「ふっ、完全に手段が目的化しちゃったなぁ」


 レベルを上げることは生きるための手段でしかなかったのに、今ではレベルを上げるために生きてるし。


「……でも、楽しければそれでいっか」


 うんうん。そうだよ。苦痛しか感じない仕事に追われ、なんのために生きてるのか分からなくなってた頃に比べたら100億倍マシだわ。


 雑魚モブに転生したって知ったときは絶望したけれど、なんだかんだで今はこうして幸せを感じられているから結果オーライだ。


 俺を転生させてくれたのが神様かなにかは存じあげないが、感謝してるよ。二度目の人生を与えてくれてありがとな。


「……いや、感謝するのはまだ早いか。主人公に転生したあいつが魔王を倒してくれるまでは油断できないからな」


 魔王がいなくなって初めてこの世界が平和になるんだ。それまでは気を抜けないな。


 さっさと倒してくんないかなぁ。俺が悠々自適なセカンドライフを送るためにさ。


 準備は着々と進んでるんだ。


 魔物を倒してドロップしたアイテムを売って稼いだ金を貯めてるところだ。


 俺は、その金で家を買おうと思ってる。夢だったんだよ、マイホームを持つことがさ。


 元の世界では、安普請やすぶしんって言葉が裸足で逃げ出すようなボロアパートに住んでたから、自分だけの家を手に入れることへの憧れが強かったんだ。


 そんで、家を持てたら次は彼女がほしいな。


 俺、前世では彼女いない歴=年齢の童貞だったんだよ。


 だから、こっちの世界ではぜひとも彼女を作りたい。


 そして、あわよくば結婚もしたいな。


 できれば、ヒロインたちみたいな絶世の美女と……なんて、そりゃ無理か。


 だって俺、主人公じゃないし。クソ雑魚モブのエリックだし。


 彼女たちとはつり合わないよなぁ、どう考えても。ハハハッ。


 

「きゃああああああ!」



 俺が自嘲ぎみに笑っている時だった。にわかに遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。


 女性の声。どこか懐かしいような、でもだいぶ切迫した感じの金切り声だった。


「なんだ!? 魔物に襲われてるのか!?」


 言うが早いか、俺は槍を地面から引き抜くと、声のする森の方へ駆けだしていた。







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