第一章:ヴァンパイア

① マルス、新たなヒロインに出会えず


 【マルス視点】



 俺はまず、初期村に一番近い街へ行った。ここにアメリアを運ぶ必要はなくなったが、新たなヒロインと出会えるからな。


 ここで仲間にできるのは【ミネルバ】。ドワーフの美少女だ。


 ドワーフってのはヒューマンより少し背の低い種族で、屈強な肉体を持っている。おまけに手先が器用だから鍛冶や工芸が得意だ。魔物からドロップする素材を使って強力な武具を作ってくれるんだよな。序盤から終盤まで役に立つヒロインだ。


 だが、んなことは俺にとってどうでもいい。


 こいつ、小柄だが良い体してるからな。元の世界で言うロリ巨乳ってやつだ。あの小玉スイカくらいある胸を思うさまもてあそぶことを想像するとワクワクするぜ。くっくっくっ。


 俺は楽しい未来を頭に描きながら、ミネルバと出会う場所を目指して街道を歩いた。しばらくすると、道の両脇に武器屋や道具屋などが並ぶ目抜き通りへ差しかかる。


 あいつはたしか、大切な鍛冶道具を失くしてこの辺りを探し回ってたはずだ。さて、どこにいるんだ?


「おお! おぬし、マルスではないか!」

「あん?」


 俺がキョロキョロと周囲を眺めていると、誰かに後ろから肩を叩かれた。


 ちっ、忙しいってのに。誰だよ、俺のヒロイン探しを中断したヤツは?


 イラつきながら振り返る。すると、そこにいたのは―――


「お前は……村長?」


 そうだ。この顔、見覚えがある。初期村の村長だ。こいつ、生き残ってやがったのか。


 ……ん? んん!? こ、こいつの頭にのっかってるかぶとは!?


「無事だったんじゃな! よかったよかった!」

「お、おい!」


 俺が質問しようとすると、いきなり村長が抱きついてきた。


 ええい、うっとうしい! 野郎に抱きつかれて喜ぶ趣味はねぇんだよ!


「離れろ、ジジィ!」


 腰に回された両腕をつかんで引きはがす。


「おお、痛かったか? すまんすまん。ついうれしくての。……そ、そうじゃ! おぬし、アメリアとエリックを見とらんか!?」

「あん!?」


 アメリアと……エリックだ? ああ、あのモブ野郎のことか! ちっ、ようやく忘れかけてたってのに、よけいなこと思い出させんじゃねぇよ!


「あいつらがどうした!?」

「あの二人だけ、まだ無事が確認できてないんじゃ! 魔王軍に襲われて、てっきり二人ともこの街の方へ逃げて来とると思っとったが、どこにも見当たらんのじゃ! おぬし、ここへ来る途中で出会わんかったか!?」

「見てねぇよ!」

「そ、そうか」


 村長はガックリと肩を落とす。


 けっ、あんなムカつくヤツらのことなんざどうでもいいだろうが! 素直に「生きてた」って教えてやる義理はねぇ!


「んなことより、そのかぶとはなんだ!? どこで手に入れた!?」

「……これか? さっき、ドワーフの娘さんからもらったんじゃよ。探しものを手伝った礼にの。髪の毛が薄くなってきた頭を隠すのにちょうどええわい」

「っ!」


 やっぱりだ! どこかで見たことがあると思ったら、ミネルバが探し物を手伝ったお返しに主人公へ渡す防具じゃねぇか! ってことは、もしかして―――


「おい、ジジィ! その娘はどうした!?」

「むん? あの娘さんなら、探し物が見つかってからすぐ旅に出たぞい。魔王軍の侵攻を阻止するために自分の鍛冶の技術を活かしたいと言っとったのぅ。いやはや、若いのに、たいそう立派な考えを持った娘さんじゃったよ」

「な、なんだとぉ!?」


 ゲームだとそこで選択肢が表示されたところだぞ! ≪一緒に行かないか?≫を選べば、魔王を倒すって目的を持った主人公と意気投合して仲間に加わるはずだったんだ!


 テメェ、よくも出会うキッカケを潰してくれたな! ふざけんじゃねぇクソジジィ!


 俺は急いで街の外へ出て周りを見渡してみた。だが、ミネルバらしき人物の影も形もなかった。







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※ミネルバが再登場するのは2章です。

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