② 次のイベントはヴァンパイア討伐
―――あれから、かれこれ数時間が経った。
俺は、何度も何度もスライムと戦い続けた。
村人ってクラスは弱いけど、レベルアップに必要な経験値が少なくて済むのが利点だ。
結果、俺のレベルはグングン上がり、それにともなって能力値が上昇していくにつれてスライムに脅威を感じなくなっていった。
素早さが上昇すると、その分だけスライムが遅く見えるようになっていった。
守備力が上昇すると、その分だけスライムの攻撃を受けても傷を負わなくなっていった。
攻撃力が上昇すると、その分だけ少ない手数でスライムを倒せるようになっていった。
現在のステータスはこんな感じだ。
※ ※ ※
エリック
クラス:村人
種 族:ヒューマン
レベル:20
H P:16/16
T P:13/13
M P:10/10
攻撃力:15
守備力:12
魔 攻:10
魔 防:11
素早さ:14
幸 運:12
装 備:木の槍
麻の服
革の靴
技 :『刺突』(消費TP:0)
→敵単体に攻撃力✕1.0の物理ダメージ
『横薙ぎ』(消費TP:3)
→射程範囲内の敵全体に攻撃力✕1.0の
物理ダメージ
『兜砕き』(消費TP:5)
→敵単体に攻撃力✕1.5の物理ダメージ
『二連突き』(消費TP:5)
→敵単体に二回、攻撃力✕1.2の物理
ダメージ
魔 法:『ファイア』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の火属性ダメージ
『ウィンド』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の風属性ダメージ
『フロスト』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の氷属性ダメージ
『サンダー』(消費MP:3)
→敵単体に魔攻✕1.2の雷属性ダメージ
※ ※ ※
うん、だいぶ能力値が高くなった。それに、レベルが上がったおかげで技や魔法をいくつか習得できた。これで、より戦いを有利に進められるだろう。そろそろスライム討伐を卒業して、もうちょっと強い魔物と戦っても良さそうだ。
「スライムがFランクの魔物だったから、つぎはEランクの魔物を相手にしよう」
この世界の魔物は強さによってランク付けされている。Fが最下級で、Sが最上級。ちなみに、魔王軍の尖兵であるレッサーデーモンはDランクの魔物だ。
「まだまだ太刀打ちできる相手じゃない。今よりもう少し上等な武具を装備して能力値を補強したとしても、まだ心もとないな。もっとレベルを上げなきゃ」
う~む。これが主人公だったら、レベル20にもなればレッサーデーモンとも余裕で渡り合えるくらいになるんだけれどなぁ。
なんたって、主人公のクラスは【ブレイブ】だ。主人公だけの特別なクラスで、かなり優遇されている。
そりゃまあ、主人公なんだから当たり前なんだけどな。だってこのゲームは【
ないものねだりはよそう。今の俺は雑魚モブのエリックだ。現実をしっかり受け止めて、弱いなりにコツコツ努力していくしかないだろうが。
「はぁ~」
分かっているはずなのに、ため息は出ちゃうんだよなぁ。ははっ。
苦笑しつつ、俺は空を仰ぐ。
「だいぶ陽が傾いてきたし、今日のレベル上げはここまでにするか。街へ移動しよう」
俺はアメリアにそう提案するため、離れたところにいる彼女の元へ向かった。
「はっ!」
ボゴォッ
「ピキィィィ!」
アメリアの拳が炸裂し、スライムが消滅した。
「おつかれ。もうスライムにはちっとも苦戦しなくなったな」
「うん! エリックがレベル上げを手伝ってくれたおかげよ! ありがとう!」
そんなにたいしたことしてないけどな。一緒に戦ってたのはほんの少しの間だけだし。アメリアはすぐに一人でスライムを倒せるようになったからな。
まあ、俺と同じ村人でも、アメリアには【種族補正】がかかってるからな。
レベルアップ時の能力値上昇確率は、クラスごとに設定された基礎成長率+種族補正で決まる。
ヒューマンは種族補正がないけれど、ワーウルフの場合はHP・攻撃力・守備力・素早さ・幸運が上がりやすく設定されているからな。
ただし一方で、ワーウルフは魔攻と魔防が上がらないし、魔法も習得できない。そのため、物理攻撃が効きにくい敵や魔法を使ってくる敵には弱いっていう短所はある。
もっとも、レッサーデーモンなら物理攻撃は通るし、魔法もそれほど強力なものを使ってこないから問題ないけどな。
だって別に、俺たちは魔王軍と積極的に戦う必要はないんだ。だから、そこまでガチにレベル上げする必要もないよな。
襲われたら撃退すればいい。やられたらやり返すっていうスタンスでいればいいんだ。
そうしていればそのうち、あのマルスに転生したヤツが魔王を片付けてくれるはずだ。あいつ、魔王討伐には乗り気そうだったし、やってくれるだろう。
んで、魔王っていう指導者がいなくなってくれれば、魔王軍は統率力を失い
「エリック、見て!」
「ん?」
少し思考に没頭していると、唐突にアメリアがうれしそうな声を上げた。なにやら地面から拾い上げて……おお!
「スライムゼリーよ!」
レアドロップきた! めっちゃ高値で売れるんだよな、これ! 強力な武具の素材になるけど、ドロップ確率が激低のアイテムだからな!
「やった! これで3つ目だ! でかしたぞ、アメリア!」
「えへへ〜。(エリックにホメられちゃった。うれしい)」
「ん? なにか言ったか?」
「!? う、ううん! なにも!」
「? そうか」
なんか、『えへへ』のあとに小声でボソボソつぶやいていたような気がしたんだが、幻聴か。
「そ、それより、これを売れば当面の生活費には困らないわよ! 今日は奮発して、なにか美味しいものでも食べましょうよ! 私、お腹すいちゃった!」
「ふむ、そうだな」
そういえば、朝からなにも口にしていない。なんなら、転生する前日から何も食べてなかったわ。
そこに思い至ると、急に腹が鳴りだした。その音に、俺たちは顔を見合わせてケラケラ笑いあった。
するとそこへ、旅商人の一団が通りかかった。渡りに船とはこのことだ。さっそく、俺は彼らを呼び止めた。
「すみません! 売りたいものがあるんですけど!」
先頭の馬車を操っていた人が手綱を引く。それに合わせて全員が動きを止めた。
「ギョギョッ、なにをお売りいただけるんで?」
御者台から降りてきたのは半魚人―――マーマンだ。
お、おう。リアルだと、けっこうキモい容姿をしてるのな。
……けど、そんな風に思っちゃ失礼だよな。この世界じゃ亜人なんてありふれているんだ。アメリアみたいなワーウルフだってマーマンだって同じ亜人。対等に接しないと。
「えっと、このスライムゼリーを買い取ってほしいんですが」
「ギョギョギョッ! スライムゼリー! こいつはありがたい。スライム系の魔物をいくら倒してもなかなかドロップしないし、売ってくれる人もいないから常に品薄状態なんでね。3つともお売りいただけるんで?」
「はい」
「他に売りたいものはないかね?」
「ないです」
スライムゼリー以外にドロップしたアイテムは薬草ばかりだったから、みんな使っちゃったし。
「そんじゃ、30万ゴールドで買い取らせていただきましょ」
マーマンの商人はスライムゼリーを受け取ると、荷台から革袋を持ってきて俺に渡した。ずっしりとした重みが手に訪れる。袋内には大判の金貨が30枚入っていた。
「ぴったり30万ゴールドあるだろ?」
「はい、たしかにいただきました」
1ゴールドは日本円換算で1円だ。つまり30万円。毎月100時間くらい残業してた俺の月収より高い。それを二人で協力したとはいえ、たった数時間で稼げたのかと思うと素直に喜べばいいのか悲しめばいいのか、複雑な気持ちになってくるなぁ。
「ギョ? そういえば君たち、この辺じゃ見かけん顔だね。どこから来なさったんで?」
「私たちはハッジ村から来ました」
俺が苦笑していると、商人とアメリアが会話を始めていた。
「ギョギョ、ハッジ村の子かい! ひょっとして、エリックとアメリアかい!?」
「え、ええ。そうですけど」
「そうかそうか、無事だったのか!」
「あの、どうして私たちのことを知っているんですか?」
「さっき立ち寄った街で、ハッジ村の人たちが君たちを探しとったんでね」
「村の人たちが!?」
「ああ、そうだよ。……災難だったね、魔王軍に襲われるなんて。でも、村の人たちは上手く逃げ延びられたそうだよ。安否が確認できてなかったのは君たち二人だけだったようだね」
「エリック! みんな無事ですって!」
アメリアが喜びのあまり抱きついてきた。柔らかくて弾力のある双球を押し当てられて気持ちいい。……っと、それはひとまず置いとこう。
「ああ、よかったな。アメリアがすぐにヤツらに気づいてくれたおかげだ」
「ううん、違うわ。エリックが呼びかけてくれたからよ。私はヤツらを見た瞬間、頭の中が真っ白になっちゃって動けなかったもの」
アメリアが眉尻を下げて微笑む。
「ありがとう、エリック。あなたは、私や村のみんなの命の恩人よ」
「お、おおげさだな。た、たまたま上手くいっただけだっての」
頬が触れそうなほどの至近距離で
マーマンの商人は、名をラハニムというそうだ。彼は、俺たちに街まで馬車に乗って行かないかと提案してくれた。それでは、彼らは来た道を戻ることになってしまうので気が引けたが、せっかくの好意を
「本当に、ありがとうございます」
「ギョギョギョ。かまわんかまわん。早く村の皆に無事な姿を見せて安心させてあげるといい」
めっちゃええ人やん。キモいとか思っててゴメンなさい、ラハニムさん。あんた、心がイケメンだよ。
「……それに、夜になると危険だからね」
今まで笑顔を絶やさなかった彼が、急に真剣な表情になった。俺はその意味が分かっていたのでとくに反応しなかったが、アメリアは疑問に思ったのだろう。彼女はラハニムさんに尋ねた。
「たしかに夜だと魔物の姿が見えづらくて危ないですけど、魔物といってもスライムしか出現しない場所ですよ? そこまで警戒することもないんじゃないですか?」
その問いに、俺たち二人に挟まれる形で御者台に座っている彼は、真っ直ぐ前を向いたまま答えた。
「最近ね、この辺りに
「盗賊ですか? 彼らは物を盗むだけでなく、人を
「いや、盗賊が出るのはもっと東の方さ。この辺りに出るのは、どうも人間じゃないみたいでね」
「というと……相手は魔王軍ですか?」
ラハニムさんはコクリとうなずいた。
「どうやら、ヴァンパイアらしい」
「ヴァンパイアって、魔力と生命力と知能が高くて、霧になったりコウモリに変身したりできる魔物でしたっけ?」
「そうそう。それに、人の生き血が大好物なんだ。とくに、お嬢ちゃんみたいな可愛い子の血がね。気をつけな」
そう、次のイベントはこれ。
ヴァンパイアに
……まあ、主人公でもない俺には関係のないイベントだけどな。
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