第3話

あの時は、それっきりキンイロオオカミの目撃談はとだえ、家畜の被害もおさまったんだ。

それが20年近くも年月を経た今になって、正体不明の野獣が、今度は村の人間を食い殺している。

しかも、襲われたのは全員、あの満月の夜にキンイロオオカミに遭遇した5人の悪ガキどもとくれば……。

さすがにオレだって気付く。謎の野獣に次に狙われるのは、間違いなくこのオレだってこと。



恐ろしい推理に没頭していると、いつの間にか停車していた地下鉄のドアが開く音に、ビクリと身がすくんだ。情けない話だが。

なにげなく顔を上げれば、仕立てのよさげな黒いカシミアのコートに身を包んだ、オレと同年代くらいの男が1人、滑り入るようななめらかな足取りで同じ車両に乗り込んできた。


オレの他には、相変わらず作業服姿の中年男が1人、疲れ切ったテイで連結ドアに近いシートの端に深々と腰を下ろしているだけだった。

にもかかわらず、黒いコートの男は、何を思ったかオレの真ん前に真っすぐに歩み寄ると、ヒザ突き合わせるほどの距離で立ち止まったものだ。


――ひょっとすると、「そういう趣味」の男なんだろうか?

なぜだかオレは、昔から『その手合い』にチョッカイをかけられやすいから、こんな場合、いささか自意識過剰にならざるを得ない。

そこで、もとからキツいと言われがちな目つきをことさらヤブニラミにすえて、男の顔を見上げた。

そして、……不覚にも呆然となった。



なんというか、こいつは、まるで……とにかくまあ、ツクリモノのような綺麗な男だった。


ケチのつけようのない出来すぎた白い顔を、ゆるやかに波うつアッシュブロンドがふわりと柔らかく彩る。

同じ色の長いまつ毛がアーモンド型の綺麗な目をけぶるように縁取っているから、明るいヘイゼルの双眸が夢見るような深遠な陰影を揺らせている。


淡い桜色の端正なクチビルの端がハナからチョコンと小さく上を向いているせいで、可憐とさえ言えそうな気安い微笑をずっとたたえているようにも錯覚するのだが、しかし、クイッと片方だけ露骨に跳ね上げた繊細な柳眉に不敵な挑発が思いがけず露呈した瞬間、男は、中世の貴公子をホウフツとする優雅なシグサでそっと上体を前に屈めながら、オレの耳に思いっきり口元を寄せるや、少し鼻にかかった甘ったるい声でささやいた。

「ごきげんよう、ラスティ。……キミを殺しに来たよ」

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