第2話
一緒の通学バスで隣町の小学校に通っていたオレたち5人は、学年はバラバラだったが、村でもエリヌキのイタズラっ子ぞろいという点で共鳴しあっていた。
そう、あの頃も、恐ろしい獣が森の奥から現れて、村の家畜を食い殺しまくっていたんだ。
夜中に牧場から走り去る獣を月明かりの下で目撃した牛飼いが、その獣がすでに絶滅したとされていたキンイロオオカミに間違いないと証言したことから、村の大人たちはガゼン色めき立った。
おそらくは地上最後の生き残りであろうキンイロオオカミを生け捕りにすることで、風光明媚だけが取り柄の小さな寒村に世間の注目を集め、あわよくば観光地化を目論んだんだろう。
こうして、森のあちらこちらと、村じゅうの家畜小屋の周辺に、無数のワナが仕掛けられた。
その晩は、ひどく巨大でまん丸いハリボテまがいの白い月が、真っ黒い夜空のてっぺんに浮かんでいた。
オレたち5人の悪ガキは、深夜、それぞれコッソリとベッドを抜け出して、山道につながる森の入り口に集まった。
狩人の息子は、両手に余るほどの大きな干し肉を家の倉庫から持ち出してきていた。
キンイロオオカミをおびきだすためのエサだ。
パン屋の息子もライムギパンを一斤まるまる抱えてきていたが、これはオレたちの腹ごしらえのために早々に処理された。
月明かりだけを頼りに、5人の悪ガキは、5つに千切り分けた干し肉をそれぞれ棒切れにさして掲げながら、奇妙な儀式みたいに、森のまわりをぐるぐるめぐり歩いた。
危険をおかして獣を捕らえるほどの度胸はなく、ただ誰より先に自分たちの目で目撃したい、まあ、その程度の好奇心だった。
そして、実際、オレたちは目撃した。
山頂の泉からコンコンと湧き出る清水によってつくられた小川が、森から抜け出て村のはずれを横断している、その橋の上に、ヤツは、川辺から高々とジャンプしてオレたちの前に立ちはだかった。
横並びに足をそろえて意気揚々と橋を歩いてきたオレたち5人は、ギョッとなって立ちすくみ、声にならない悲鳴をノドにひきつらせた。
子牛ほどの巨大な野獣は、素晴らしく洗練されたシナヤカで美しい体躯を、名前どおりのツヤツヤした金色の被毛に覆われていた。
琥珀色の双眸をひたと真っすぐに見すえてくると、鋭利なキバをのぞかせながら口を開いた。
「命が惜しいか、人の子らよ……」
そう、確かに言ったんだ、ヤツは。
あのゾッとするほど美しい野生の獣は、5人の悪ガキに向かって、陰惨な冷たい声で、人間の言葉を発したんだ。
それは確かだ。
翌朝、5人でピッタリ身を寄せ合って橋の上で気絶しているところを牧童に見つかり、駆けつけてきた親どもにこっぴどく叱られた後、オレたちは、前の晩のことをこっそり語り合った。
金色の野獣が人の言葉でオレたちに話しかけてきたことまでは全員ハッキリ記憶が一致していた。
けれど、その後がまったく思い出せない。5人のうち誰一人として、オオカミが何を語り、オレたちがいつの間に橋の上にのびてしまっていたのか、まるで覚えていなかった。
5きれの干し肉は、キレイサッパリ消えていた。
そして、誰から言い出すともなく、オレたちは、キンイロオオカミとの対峙を絶対に秘密にすることを誓い合った。
なぜそうすべきなのか理由は分からなかったが、そうしないと間違いなく恐ろしいことが起こるという奇妙な不安にとりつかれていた。
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