第11話 「白モフの涙の理由」



『儂だって、儂だってな、好きでこうしてるのでは、ないっ』


グスっと鼻をすすりながら話すわたあめ。

じゃ、なかった……白モフ。



ちょうどいい感じに煮えた牛すきをよそって目の前に置いてやる。

小鉢じゃ食べづらいだろうから、ちょっと小さめの浅い平皿だ。

熱いの大丈夫か聞かなかったが、魔物だし大丈夫だろう。



アイテムボックスからメンバー全員の小鉢と箸を取り出す。



さてと俺も食べますか。

小鉢に肉と椎茸、糸こんをよそう。

霜降りお肉が柔らかいし椎茸も肉厚だし美味しい。

あ、生卵は好き嫌いがあるので少し大きめの深皿にまとめて置いておいた。

俺は生卵使わないで食べる派です。

生卵嫌いではないけど、このあまじょっぱいままで食べたい。


「贅沢って書かれてただけありますね。暖まりますねー酒欲しい」

「うまっ……お肉柔らかい。……溶けるっ」

「久しぶりたべたけど美味しいわね。1人だと中々つくらないのよねー。ワインないかしら」

「そうでござるな。作るのが手間で外食になりがちでござる。日本酒あればいいでござるな」


おい、大人組。

お肉を頬張る微笑ましい高校生のピュアさを見習え。

これ食べたら探索再開するんだから、俺のアイテムボックスにある酒は出さないよ。

探索終わるまで我慢して下さい。



『呑気に食べてないで、儂の話しを聞けェェェッ!?』

「何だまだ続くの?終わりでよくない?」

あれ続いてたの?

食べるのに夢中で皆話し聞いてないからもう終わったのかと思った。

てか、白モフもよそってあげた牛すき食べてるじゃん。

皿が空っぽになっているし、白モフの口の回りが汁で汚れていた。

あ、なるほど!

お代わりの催促か、仕方ないなーと空になった皿によそってやる。


『よくないわっ!儂の話しが気にならんのか……!』

「いや、全然。てか、食べてから喋れよ」

『むっ、モグモグ。……けふっ、食べすぎた。……では、初めるぞ!』

そこは律儀に言う事聞くんだね。

元から威厳とかないが、せっかく可愛いらしい姿なのだから綺麗にしとかないと……

一生懸命威厳をだしてる(つもり)の白モフの汚れた口を横から拭いてあげた。

後ろから「オカンですか」とか聞こえたが、絶対犯人ヨウスケだろ。

誰がオカンだ。

こんなわたあめみたいなポメラニアンを産んだおぼえはねぇよ。




『あれは、儂が小僧に負けて傷だらけのままこの島をさ迷ってあた時じゃった……』


いきなり語りだす白モフ。

話し終わるまで待つと鍋冷めちゃいそうだな。

あ、アイテムボックスにご飯あるしちょっと早いけどシメの雑炊作っちゃおう。



―1ヶ月前。


とある冒険者の小僧がこの島にやって来た。

次々と配下の4人を倒したかとおもえば、魔物を倒すのが飽きたのか島を切り開き開拓し始めた。

なにをしでかすか分からん小僧だが、自分のやりたい事を楽しそうにしているすがたを見ているのは飽きなかった。

しかし儂はこの島のヌシ。

この島の魔物達の為に小僧を倒さねばならない。


満月のある日。

フラりと遊びに来たぐらいの気軽さで儂の前に現れた。

闘い、休み……また闘うのを繰り返す事1週間。

一進一退の中、いつどちらかが倒れても可笑しくはないそんな闘いだった。



その死闘を制したのは小僧だ。


あやつが最後に何かを言っていたが、何だったかすら覚えていない。

ただ儂は【敗北】した。

ただそれだけしか頭になかった。


長年住んでいた住みかを離れ、この島を当てもなくさ迷っていた。


自分でもさ迷っている【理由】が分からない、ただ“何か”を探して歩き続けた。



―そんな時。


2人の魔人を従えた魔物と出合う。

姿形が儂とそっくりな、いや……もう1人のだ。


同じ姿なのに儂はアイツに傷1つすらつけられなかった。

むしろアイツの配下である魔人にすら負けてしまう始末。


ヌシの《証》を奪われ、ただの魔物となった儂は崖から放り投げられたのだった。


『幸い儂は泳ぎが得意だからな。浜辺まで泳いで、アイツ等を倒す機会を伺っていたのだ』


「つまり、新しいラスボス君と配下に袋叩きにされてメソメソ泣いていたと……」

『違わなくはないが、オブラートに包んでもよいのではないか!?』



あ、シメの雑炊いい感じだな。


皆の小鉢に雑炊をよそっていく。

うん、やっぱり王道だけど鍋のシメはこれだよね。



「魔人か……多分あそこかな」

「あら、分かったの?」

雑炊を堪能しながら思い浮かべたある場所。

隠れるにはもってこいなんだよな。


「この島に隠れそうな場所なんてあったでござるか?」

そうか、サカイさんは偵察でこの島一通り見てるから分かるか。

でもに出ているだけがこの島の全てではない。



「地下だよ。この下にある“隠しエリア”」






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