第18話 日常



まだ少し、寒さが残る日が続く。

底冷えするような寒さでもないが、冷えるのは冷える。

「……」

煙草をふかしていた。

周りには誰もいない。

社内に残るのは、一人。

―所謂、残業というヤツだ。

「はぁ〜」

周囲に誰もいない分、わざわざ喫煙所に行ったりする必要がないので、いいのだが。

いや、よくないか。

(これで、何連勤だ?)

まあ、この会社は、ブラック企業というヤツで。

家に帰れないことなんでザラにあるのだ。

「……」

お陰で何もかも無くした。

「……」

一応、結婚はしていたのだ。

帰りが遅い事のはあたりまえ。

ろくに家に帰れないこともしばしば。

家事育児なんて、手伝いようもない。

「……」

そうしているうち、妻とすれ違い。もう後に引けなくなって。

―別れた。

色々と献身的にしてくれた妻に対して、あんな態度だったのだ。それは限界が来るに決まっている。

「……」

幼い子供もいたが、親権がこちらにある訳もなく。

子供たちは、妻と共に出ていった。

「……」

どこで間違えたんだか。

始めからだろうか。この仕事についたのが運の尽きだったのだろうか。

別れてから、なおの事。

自分の人生が、何のためにあるのか分からなくなっていた。

「……」

なんて、らしくもないことを考えている間に、煙草はその背を限界まで、縮めていた。

下手したら火傷していたな。

―まぁ、それも悪くはなさそうだが。

「……」

さて、さっさと終わらせるか…。


それからは、カタカタと叩く音が響くだけだった。



どれくらいの時間がたったか。

やっと、仕事が終わった。

「っふー、、、」

ついため息が漏れる。

何時だ……

ギシ―と、背もたれに体重を掛けながら、時計を見やる。

「……」

いつの間にか日を跨いでいた。

遠くで、電車の踏切の音が鳴っていた。

始発か、それとももう何本も走っているのか。

どうするかな……

「……」

このまま、会社に泊まろうか―とも思ったが、明日が久しぶりの休みだったことを思い出す。

何を思ったのか、部長に休暇を言い与えられた。

自称平社員である俺に、休暇を与えるなんて、何かあったんだろうか。

(帰るか…)

とうとうクビかな―なんて思いながら、会社の外へと出る。

道を歩く人はまだ少ない。



お題:喫煙・踏切・自称

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