第16話 先生
先生は、コーヒーが苦手だった。
ココアとかホットチョコとか、甘い飲み物の方が好きなそうだ。
子供っぽいですね―なんていったら
「悪かったな、お子ちゃまで。」
と、ほんとうの子供みたいに拗ねられた。
なんだか、とってもかわいく思えて。
そういう所ですよ―
と言いそうになった。
さらに拗ねてしまいそうだったから言わなかったけど。
でも先生は、子供どころか、大人でもなかなか相手にならないほど、ピアノが得意だった。
男の人らしい、大きな手で。
鍵盤をたたく。
テンポの速い曲から、ゆったりとした曲まで。
何でも自由自在に弾いてみせるのだった。
でも、音楽の先生―という訳では無いのだ。
―何で、音楽の先生にならなかったんですか?
「音楽、というかピアノは趣味であって、それの教師になろうと思うほど、入れ込んではないからなぁ。」
淹れたてのココアを冷ましながら答える。
―じゃあ、なんで保険医になったんですか?
「ん〜。特にこれといった理由はないんだよなぁ。あえて言うなら、教師になるよりは楽そうだったから?」
なんて、ちょっと笑いながらいった。
―理由が不純ですね。
「お前に会えたから、良いでしょ。」
不覚にも、惚れ直してしまった。
―他の教科の先生になっても、会えたかもしれませんよ?
照れ隠しに、そんなことを言ってみる。
「そうかもだけど、やっぱ今じゃないと会えない気がする。」
何度惚れさせる気だ。
―でも、ほんとうの理由を教えてくださいよ。
畳み掛けるように問いかける。
猫舌なので、ゆっくりとココアを飲みながら、考える先生。
「んー。じゃあさ、それはお前が20歳になってからでどぉ?」
―何言ってるんですか。今ですよ。今。
頑なに理由を言わないので、逆に聞きたくなってきた。
それぐらい、教えたところで何も変わらないだろうに。
「え〜、お前と俺のさ、タイムカプセル作って、お前が20歳になったら開けようぜ。そん中にその理由書いた紙入れて。」
―それ、タイムカプセル作りたいだけでしょう。
呆れた声で返す。
ホントに、私より大人なのだろうかこの先生は。
「いいじゃん。タイムカプセル。」
にかっと笑う顔のせいで、さらに子供っぽく見える。
しかしまぁ、これ以上は、何を言っても変わらないと思うので、タイムカプセルを作ることにした。
―先生は、こういう所も、子供っぽいですよね。
ついつい我慢できずにそう、言ってしまう。
「子供が、大人に子供みたいなんて言うんじゃない。」
また、拗ねられた。
お題:コーヒー・ピアノ・タイムカプセル
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます