第15話 事故



「さよならだけが人生だ。」

いつだったか。

彼はそんなことを言っていた。

普段あんまり、そういう事をいったりしないから。

正直驚いた。

だから私は。


「そんなことは無い。」

とか、

「そんな悲しいことを言わないで。」

とか、


そんな言葉は、かけなかった。

気の利いたことなんて、何も言えなかった。

多分、

「え?」

とか、そんな感じだったと思う。

突然言われたのだ。誰でもそんな反応になる。

突然、突拍子もなく言われたのだから仕方ないだろう。

そんな私に、彼は、

「いや、何でも無い……」

そう言った後、何事も無かったように、別の話をし始めた。

何事もなかったように、日常の会話を楽しんだ。

私も、別に気にはしていなかったので、忘れていた。


私が、彼のその言葉を思い出したのは―思い出さざるを得なかったのは―まだ、寒さの残る3月14日だった。

その、ちょうど一ヶ月前の、2月14日―バレンタインデー。

手作りのチョコレートを彼にプレゼントした。

とても喜んでくれて、私も嬉しかったのを覚えている。

「お返し、楽しみにしてて。」

少し恥ずかしそうに、はにかみながら、そんなことを言う彼。

「うん!」

その日は、1日中幸せだった。

ふわふわした気持ちで一日を過ごしていた。


そして、3月14日。

彼が、

「星を見に行こう。」

お返しを貰った後。

突然の誘いだった。

断る理由もないし、その日は、1日休みだったので、星を見にいった。

彼は、少し遠い展望台まで、連れて行ってくれた。

そこから、見た景色は、圧巻という他無かった。

それほど、綺麗だったのだ。

空一面に広がる星は、キラキラと輝き、たくさんの宝石が散らばっているようにも見えた。

私は、この景色を一生忘れることはないだろうとまで思った。

それから、その帰り道。

事は起きた。


事故に巻き込まれた。

突然、トラックが、私達の乗る車目掛けて突っ込んで来たのだ。

何とか逃げようと、彼はハンドルを思い切り回した―が、間に合わなかった。

トラックに飛ばされ、私は意識を失った。

覚えているのは、目の前に広がるトラックのライトの光と、一瞬戻った視界の隅で、血を流している彼の姿。


それから、目が覚めたのは、病院のベッドの上だった。


所々痛みが走ったが、そこまでひどいものではないようだ。

包帯も巻かれていたりしたが、そんなものは後回しだ。

わたしの事なんか。

それよりも、何よりも。

「彼は!?一緒に乗っていた……!」

真っ先に、彼のことを尋ねる。

しかし、医者は何も言わず、顔を伏せるだけ。

(もしかして…………!)

「現在、集中治療室に運ばれています。ですが、命の保証は……」

「うそ、でしょ……?」

嘘だと言ってほしかった、大丈夫だと言ってほしかった。

けれど、医者は―やはり何も言わなかった。

それは、無言の肯定としか思えなかった。

そのショックで、私はまた意識を手放した。


そして、もう一度、目覚めた今。

彼の言葉を思い出していた。

「さよならだけが人生……ね。」

彼は、いつか訪れる別れを悟っていたのだろうか。

それとも、何か、別のことを―

ガタン―!

突然、ドアが開いた。

「意識が戻られました!」

「え!?」

一瞬、何が起こったか分からなかった。

「本当ですか!?」

「はい。つい先ほど、ですからまだ面会は出来ませんが……」

それでも、彼が助かっただけでも嬉しかった。

今度面会するときは、この話をしよう。

そして、さよならだけか人生だなんて、彼が一生言えないようになるくらい、たくさん出会いの話をしよう。



お題:「さよならだけが人生だ」・チョコレート・星

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る