第7話 恋故
高校3年の春。
桜舞う、校門へと続く道。
行きたくもない学校に向かう中。
私は、恋に落ちた。
あの、キラキラと輝く笑顔に、魅せられた。
太陽のようだなんて、ありふれたことは言いたくないけれど。それでも、確かに。その笑顔は、太陽のように眩しかった。
―もちろん、私に向けての笑顔なんかじゃあない。
部活の友人と、楽しげに話していただけ。
けれど、あの笑顔は、いつまでも忘れない―忘れられない。
名前は知らなかったけど。
彼のことが気になって仕方なかった。
つまらない学校生活が楽しくなった。
毎朝、彼の姿を見つけただけで胸が躍った。
毎日まいにち、授業中であろうと、放課後であろうと、彼のことで頭が、いっぱいだった。
ある日、その気持ちは重みを増し、思いを増して。
―弾けた。
私は、彼に告白した。
初めて見た時から、好きだったと。
あなたの笑顔に惚れたのだと。
言葉を尽くし、思いを告げた。
けれど、私の思いは受け入れられなかった。
彼は。
何故、お前なんかと共にいなくてはいけないのだと、お前みたいなやつと付き合うわけないだろうと。
貶し、罵り、見下した。
正直、彼が何を言っているのか。
私は何を言われているのか、全く分からなかった。
頭の中が、真っ白になっていくのが分かった。
私の中の何かが崩れていくのが、分かった。
瞬間、意識が遠のいて行くのを感じた。
一瞬見えた景色は。
腕を抑えて蹲る彼と、その足元に鈍く光る、鋏だけだった。
目を覚ましたそこは、真っ白で清潔感のある所だった。
(ここは、)
周りを見渡すと、医者らしき人が、寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
―学校で倒れたんですよ。
それを聞いて、ガバッ―と体を起こす。
「かれは、彼は大丈夫何ですか!?」
真っ先に、彼のことが頭をよぎった。
何か腕を抑えていなかったか?私の見間違いか?
「彼?ああ、一緒に運ばれた男の子。
大丈夫だよ。腕を少し切られていたが。」
最後の方は、あまり聞こえなかった。
「君も掌を怪我していたから、包帯を巻いておいたからね。きつくないかい。」
「大丈夫です。」
―それなら
と、医者は出ていった。
それから数日。私は退院した。
何日かぶりに学校へと向かう。
―なぜか今まで以上に他生徒からの視線を感じたが、自意識過剰だろう。
その途中、彼を見つけた。
珍しく、1人で歩いていた。
彼は、腕に真っ白な包帯を巻いていた。
私が、手のひらに巻いているのと同じように。
それが少し嬉しくて。
「ねえ、それ、どうしたの?」
手を伸ばした。
指先が、包帯に触れる。
バッ―と、腕を振り払われる。
「どうしたって―お前がやったんだろう!!!」
目の前が、真っ赤に染まる。
(あれは、あれは夢では無かった?)
「お前のせいで―!!!」
あぁ、そういえば彼は、なにか、球技をやっていた。
私が、腕を切ったせいで、試合が出来なくなったのだそうだ。
そのような事を喚き散らし、彼は逃げるように校舎へと向かって行った。
わたしが、私が彼を傷つけたのだ。
なんて、幸せなのだろう。
私が、彼の記憶に刻まれたのなら、どんなカタチであろうと―
お題:鋏・包帯・指先
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