第6話 別



「別れようか。俺達。」


突然告げられたその言葉。

目の前が、真っ暗になった。


ザアアァァアアア――――!!!


「………………」

大雨の降る中、私は数分前の彼の言葉を思い出す。

「どうして……」

何が悪かったのだろうか。

何が彼を傷つけたのだろうか。

何が気に入らなかったのだろうか。

―私では、彼に見あわないことは分かっている。

彼よりも、誰よりも。

私自身が一番、分かっている。

「……」

それでも、私のことを好きだと言ってくれた彼が、私は大好きだった。

私も、応えたいと、心の底から、そう思っていた。

―それなのに、どうして。


「…………………………」

私は独り。

行く当てもなく歩いていて。

気づけば、公園に来ていた。

雨の降る中、キィキィとブランコが揺れている。

雨に濡れて、頭が、瞼が、重たかった。

目を瞑ると、彼との最初の出会いが、つい昨日のことのように思い出される。

「……」

出会いは、図書館だった。

お互いが、同じ本に手を伸ばして―とか、そいう少女漫画的なのではなく。

たまたま、私がその図書館の司書をしていたのだ。

初めは、特にお互い意識をしたりはしていなかった。

それでも、よく見かける彼に少しずつ惹かれていった。

それは彼も同じだったのだろうか。

その頃はきっと、そうだったと言ってほしい。

「……」

初めて声をかけられた時は、心臓が飛び出るかと思ったぐらいドキドキした。

そこからは、風のように過ぎていった。

お互いの趣味があっていたこともあり、図書館近くのカフェで少し話すだけだったが、毎日がキラキラと輝いて見えた。

そんな幸せな日々が続いた後、結婚を前提に付き合ってくれと言われ、私はもちろん、ハイと答えた。

「……」

それから、一緒に暮らすようになり、休日に2人で出かけたりすることも増えた。

水族館に行ったり、映画を見に行ったり、遠くへ出かけてみたり。

そして、いよいよ、結婚の時期を本格的に考えてもいいのではないかという時。

付き合いだして2年と数ヶ月すぎた今日。

別れを切り出された。

突然。

「…………」

重いと言われても仕方ないが、私は彼がいなくなるなんてことが、全く想像がつかないほど、彼に一直線だった。

それは、彼も同じ気持ちなのだろうと思っていた。

でも、違った。

彼は、もう、私のことなんて、眼中に無いのだろう。

「こんなに、愛していたのに。あなたは、ちがったの、」

涙が零れ、嗚咽が漏れ、気持ちが溢れた。

「私は、あなたしかいないのに。あなたは、私では、いけなかったの、

「これから、どうしろと、いうの、

こんなに人を愛したのは、初めてだった。

誰にも渡したくないと思ってしまうほどに。

正直自分が、こんなにも独占欲が強い人間だったのかと、驚いてしまった。

「あなたには、わたしは、もう、いらないの、

言葉が、思いが、溢れる。

「わたしの、なにが、いけなかったの。」

教えてよ―



どれくらい、そんなふうにしていたのだろうか。

雨はあがり、涙は、枯れてしまった。

私は、こんな所で何をしたかったのだろうか。

彼が迎えに来るのを待っていた?

別れようと言ったのに?

まだ、彼のことを信じていたかった?

きっと、そのどれもがあっていて、間違っているのかもしれない。

「……」

帰ろう―

きっともう、家にはいないだろう。

私のことなんて、もう、忘れているだろう。

私も、彼のことを忘れて、前に進もう。



















(そんなの無理だよ………)




お題:雨・ブランコ・図書館

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