第5話 初めての恋(?)



恋を、した。


桜の舞う春―ではなくて、蝉の鳴く暑い夏。

目の前に現れた彼に、一瞬で心を奪われた。

いわゆる一目惚れと言うやつ。

曲がり角でぶつかったとか、夏の日差しで立ち眩みになって倒れたとか。

そういう少女漫画的な出会いでは無かったが。



「あっづい……」

ド田舎に住む私は、バス停で、項垂れていた。

じりじりと肌を焼く熱にやられてしまって。

休みの日に、朝から部活に励み、今日は解散ということになり―帰るためのバスを待っている。

田舎だからなのか(だからだろう)バス停には、私以外誰もいない。

(バスの中も暑いんだけど…)

バスに乗れば涼しいという訳では無い―むしろ暑かったりする。

うがーと、バス停のベンチで、スカートをばさばさとしながら、涼をとる。

中に短パン履いてるから、平気。

その上、こんな田舎のバス停。真昼のこんな時間に来る人なんていない。

普段もそんなにいないのに。

休日だからなおさら来ない。

「……」

仰ぐ風は太陽で温められているものだから、微妙に生ぬるい。

それでも、あるのとないのとじゃぁ違うから、手は動く。


「お姉さん、それやめた方がいいよ。」


私以外誰もいないバス停に、知らない声が聞こえた。

(え、この時間は誰も来ないはずなのに……!?)

「おねーさん。」

「え!?あ、ごめんなさい」

そう言いながら、声がしたような気がした方に顔を向ける。

綺麗に整った目鼻立ち。少し長めの黒髪がサラサラと風に揺れる。見たところ、同い年ぐらい―男の子が立っていた。

(うわ、ちょー綺麗。どこの人だろ?)

ついつい、ガン見してしまった。

こんな美形生まれて初めて生で見たものだから…。

田舎に居るのなんて、幼い頃から見慣れた同級生と、じじばばぐらいだ。

「僕の顔に何か付いてますか?」

ニコリと微笑む。

まるで天使のよう―とで言えばいいのか。

なぜこんな美形に微笑まれているのか全く分からない。―あ、見過ぎでか。

「あ、いえ、ごめんなさい。」

それ以降、どう言葉を繋げたらいいものか、全く分からず、気まずい空気が流れる。

そこに、タイミングよく、バスが、やってきた。

(うあ、ありがとぅ)

今まで感謝したことなんてなかったけど、今回ばかりは。

バスが来たことを確認し、男の子が歩き出す。

「お姉さん、そんなことしてたら、男子にモテないよ?」

そんな、天使みたいな顔で、悪魔みたいなセリフを残して。

クスクスと、笑いを漏らしながらバスに乗る彼。

「んな―////」

プシュー

バスの扉がしまる。

まるで、馬鹿にしてきたように。

さっきの感謝は撤回だ。

ヒラヒラと、バスの中から手を振る。

そんな男の子を乗せ、バスは過ぎて行く。

「うるっさいわ〜!!!」

イライラしながらも、ドキドキと心臓がうるさかった。

あんなにうるさかった蝉の声が掻き消されるくらいに。

(なんなの、何なの、何なのよ!!!!)

自分の気持ちが分からず、イライラ、ドキドキしてた。

初めは、それが恋だなんて分からなかった。

だって、そんな感情、理解できなかったから。

初めての感情に、心が追い付いてこなかった。


それから、家に帰って、友達と今日あったことを話していると、

「それ、好きってことでしょ!」

と言われた。

「はぁ?何言ってんの?んな訳ないじゃん。」

あんなことを言われて、馬鹿にされて、イライラしていただけじゃないのか?

けれど、友達のその言葉が、自分の中で、やけにスッキリと、飲み込めた。

(これが、恋?)

恋なんて、一生関わることはないと思っていたから。

よく分からない。

恋とはこういうものなのか。

檸檬味のキャンディを食べてるみたいに胸がキューっとして。

甘いチョコレートを食べてるみたいにフワフワして。

新しくて可愛いスカートをはいたときみたいに、心がおどって。

(まぁ、これが恋かどうかなんて、私には分かんない…)

それでも、やっぱり彼の事が頭から離れないのは何故だろう。

また、明日会えるかなとか、もう少しお話したいなとか、そんなふうにかんがえるのは、恋をしているからなのだろうか。

誰か、私に教えてくれないだろうか。

これが、本当に恋なのか。



お題:キャンディ・チョコレート・スカート

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