第54話 エピローグ
デューテの襲撃を受けた王都は、光による大きな被害を被った。
戦場となった地区には、濃い瘴気が充満し、それらの浄化に多くの聖女が駆り出されることとなった。
闇堕ち聖女による赤黒い光は、王都の人々を恐怖のドン底に陥れた。
壊れた建物。
地面に空いた大穴。
戦場となった痕跡は、痛々しく残っていた。
焼け焦げた市街地には、瓦礫が散乱し、それらの撤去作業も同時進行で行われる。
そして、今回の騒動において、死傷者数も非常に多かった。
死者131人。
重軽傷者が426人。
……死者の内、聖女の人数は半数を超える74人。
一級聖女を含めて、多数の聖女を失った神聖教会。
これらは、非常に大きな痛手であった。
そして、彼らは知った。
闇堕ち聖女の存在を。
襲撃に訪れた闇堕ち聖女は、複数人。
単独ではないことも多数の目撃証言から明るみになり、『リライト』の増員、戦闘訓練は更に活発化することになった。
──元神級聖女ノクタリア。
私という過去の存在が、今一度見直される。
闇堕ち聖女として、再びこの地に猛威を振るうのではないのかと、その話は教会だけでなく、市井にも広く知れ渡った。
聖女たちが闇堕ち聖女と初めて戦闘を行った日。
その日のことを、彼らはこう名付けた。
『終焉の幕開け』……と。
邪智暴虐な闇堕ち聖女たちが暗躍を続けるセイント王国。
一般市民にも、その不安は波及していたが、私たちを最も恐れたのは、王国内で大きな利権を得て、それらを振り翳し続けた『上級国民』だった。
闇堕ち聖女の標的が自分たちであると知った途端、教会に聖女の派遣を申し出る者が後を絶たなかった。
それだけ、己のしてきた悪事に自覚があったのだろう。
しかしながら、自覚のない者も存在する。
弱者から金を搾り上げて当たり前。
特別な優遇されて当たり前。
世界は全て、自分中心に回るべきだ。
自分はそれだけ国に貢献をしてきたのだから、多少の横暴は許されるに決まっている。
そういう輩には、罰が下らない。
それが、彼ら……『上級国民』の国から受ける扱いなのだ。
▼▼▼
「ノクタリアよ。確認だけど……今回の標的は、王国立魔法学アカデミーの教授でいいのよね?」
大きな時計台の頂点に立ち、私は耳に手を当てながら、その応答を待つ。
暫くして、明るい声音が聞こえてきた。
『はい、そうですそうです! 実習授業中に学内にある設備の操作を誤り、100人を超える生徒を死なせた大悪人。裁判も行われたそうですが、結局は懲役5年、執行猶予6年の判決を受けて、今も大学で当たり前のように過ごしているそうです』
「そう、その教授の名前は?」
『ミノス=ドミトスキー。攻撃魔法学の第一人者らしくて、王国からの研究支援金も多いそうです』
なるほど。
学生の命よりも、実績のある『上級国民』の擁護を優先する。
この王国らしいやり方だ。
『生徒の親族は怒り心頭らしいです! なんでも、そのミノス教授が、『あれは事故だ! アカデミーの設備不良だ!』なんて言って、自分の罪を真っ向から否定したんですよ。……だから、ここで、ノクタリア様があの男に無慈悲な制裁を加えれば、闇堕ち聖女の株も爆上がり間違いなしです!』
通信先からは、なにやら活気に満ちた声音が飛んでくるが、そんなイメージ改善をするつもりはない。
「私たちへの評価なんて、どうでもいいわ」
『そうですかぁ……?』
「ええ、私はただ、悪人に然るべき制裁を下すまで」
治外法権のお手本のような存在。
そんな悪人に対して、平等な制裁を下す。
国がやらないから、私たちがその役割を担っているだけ。
ただ、それがこの世界の理不尽に対する抵抗であり、正義の味方を気取るつもりもない。
「私たちは闇堕ち聖女……正義の存在には、死んでもなれないわ」
『……でも、私からしたら、ノクタリア様が正義です!』
「……そう。それは、ありがとう」
与太話を挟みつつ、私は王国立魔法学アカデミーの建物に視線を向けた。
「じゃあ……そろそろ切るわ」
『は〜い。あっ……生徒の親族から受け取る謝礼なんですけど……取り分は?』
「私はいらないわ。貴女の好きに使いなさい」
『わぁぁぁ! やっぱりノクタリア様が一番です! お仕事頑張ってくださいね〜』
それっきり、会話は切れる。
深く息を吸い、そのまま表情を引き締める。
私は闇堕ち聖女ノクタリア。
この命が尽きるか、破滅の道を進むまで……私の、私たちの制裁が終わることはない。
今日もまた、悪人を地獄に落とす。
私は、『上級国民』やかつて仲間だったはずの『聖女』に未来を奪われた。
だから、これはある種の報復でもある。
この世界に蔓延る不平等を平等に保つ。
それが、私なりの……世界への復讐だ。
邪智暴虐の闇堕ち聖女 相模優斗『隠れ最強騎士』OVL文庫 @sagami254
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