第50話 離脱
聖女たちに囲まれて、シノンや私が離脱することは難しい。
だからこそ、グラズに告げた指令が、この場面で生きた。
──ズドーンッ‼︎ ガガガガガッ!
「教会が……!」
「今の爆発は何⁉︎」
「教会の方で大きな爆発があったそうです!」
「そんな……」
教会の建物は大きく傾く。
土煙と爆音は、王都中に響くくらいに大きかった。
シノンが交戦していた聖女たちも、その爆発音に気を取られた。
そして、その一瞬の隙をつき、シノンは聖女たちから大きく距離を取った。
「ばいば〜い♪」
グラズに命令したこと。
それは、教会の爆破だ。
シノンとデューテが派手に暴れたおかげで、教会の周辺には、警備が少なくなっていた。
割けるだけのリソースを、闇堕ち聖女への対応、それから民間市民の避難に人員を総動員していたからだ。
そして、付近の『上級国民』への護衛。
それらの事情から、教会を守る聖女は、大幅に減っていた。
……加えて、グラズは警戒されにくい。
いかにも人畜無害な面持ちであり、風格も一般人と相違ない。
だからこそ、目立たない彼は、適任だった。
デューテの亡骸を抱えながら、王都にある家の屋根を駆け抜けていると、並ぶようにシノンが追い付いてきた。
「お疲れ、ノクタリア」
腹部の穴は空いたまま。
されども、彼女はピンピンしていた。
「……治癒はしないの?」
「言ったでしょ。これは勲章だって」
「はぁ……」
続いてシノンは、私の抱えているデューテに視線を向けた。
顔は白くなり、血が通わなくなって冷たい。
そんな彼女を見て、シノンは呟いた。
「ご苦労様……デューテちゃん。ゆっくりおやすみ」
「…………」
「いやぁ、やっぱデューテちゃんに引導を渡すのは、ノクタリアだったね!」
明るい声音で、シノンはそう言う。
しかし、なんとなく彼女から感じたことがあった。
「……シノンは、デューテを自分の手で殺したくなかったのね」
「うん。そう……だから、ノクタリアに押し付けたんだ!」
「……そう」
「まあ、デューテちゃんは殺すべきってのには賛成したんだけど、いざ目の前にするとねぇ……すぐには中々殺せなくなっちゃったよね〜」
駆けながら、シノンは私の肩を叩く。
「ノクタリアは、契約者の子を回収するでしょ? デューテは私が担ぐよ」
その瞳には、否定を許さないような力強さがあった。
キキッとブレーキをかけ、私は立ち止まる。
聖女の追手はない。
それを確認してから、私は無言で頷く。
それから、デューテの身柄をシノンに託した。
「『叫びの沼沢』に帰るんだよね?」
「ええ」
「おっけぇ。じゃあ……私とデューテちゃんは、一足先に帰っとくね!」
「後から追い付くわ」
「うん……」
私とシノンはルートを分ける。
聖女からの追跡を分散すると共に、お互いに離れたいと考えたからであった。
「先に……弔っとくから」
「ええ、そうしてあげて」
最後にそう言葉を交わして、私はグラズを迎えに行った。
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