第48話 最強の闇堕ち聖女
──はぁ、随分と勝手なことを言うわね。
シノンは、チラリとこちらへ視線を向けてくる。
『あとは任せたよ』
彼女の瞳は、そんなことを告げているように煌めいた。
余裕そうな顔をしているシノン。
しかし、蓄積したダメージは相当大きいはずだ。
加えて、『光』の力も行使しているため、時間ごとの消耗も大きい。
「……はぁ、仕方がないわね」
まさか、あのデューテがシノンと互角の戦いをするとは思わなかった。
シノンの一方的な攻撃によって、瞬殺される未来が頭に浮かんでいた。
けれども、彼女はシノンに大きな一撃を加えた。
そして、ボロボロながらも、未だに立てている。
元々は準二級聖女。
しかし、闇堕ち聖女となってから、彼女は確実に成長していた。
──将来性があっただけに、処分しなければいけないのが、残念でならないわ。
私は家の屋根を伝い、シノンとデューテが激しく争った場所へと飛び降りる。
両腕を欠損したデューテは、逃げようとしていた。
しかし、私の顔を見て、固まる。
「なんで……ノクタリア」
「だから言ったじゃない。トドメはノクタリアだって、ねぇ?」
面倒な役割だ。
無駄な手間を掛けさせたシノンは、楽しそうに笑う。
……傍観する気満々である。
「シノン……私は、貴女に処分を任せたつもりだったのだけど」
「こんなに満身創痍なのに……無茶言わないでよ〜」
「傷を治せば、いくらでも戦えるでしょう?」
「えぇ〜、そういう冷めるようなこと言わないでよ。傷は戦いの勲章なんだよ〜?」
「はぁ……」
シノンは治癒魔法も使える。
だから、腹部を貫かれようとも、四肢を欠損しようとも、治そうと思えばいくらでも戦える状態に戻すことができる。
それをしないというのは、後始末を私に押し付けるということ。
「理解に苦しむわ」
「だってねぇ……あっ、聖女が集まってきた!」
シノンは背を向け、こちらに駆けてくる聖女たちに視線を向けた。
「本当に、ゴキブリみたいにうじゃうじゃと……ということで! 私は、聖女たちを駆除するので忙しいから。後はよろしくノクタリア♪」
シノンは、それだけ言い残し、腹部に穴を開けたまま、迫り来る聖女たちに向かっていった。
爆音か響き渡る。
シノンは、楽しそうに聖女たちの蹂躙を行う。
その場に残された私に、選択肢などない。
目の前のデューテを始末する。
それだけだった。
「さて、仕方がないから……私が相手をするわ。デューテ」
「……くそが」
「とはいえ、貴女もだいぶ消耗しているみたいだし……安心なさい。時間は掛けさせないから」
「私を……私を馬鹿にするなぁ……!」
まともに戦えもしないくせに、デューテは決死の形相でこちらに突っ込んでくる。
勇姿だけは認めてあげたい。
彼女は、彼女なりの覚悟があった。
だからこそ、こうして王都に赴いた。
考えなしなだけじゃなかった。
恐らく、私たちとの対立も頭の片隅に考えていたはず。
それでも、彼女は選んた。
禁忌を踏み抜くことを。
「ノクタリア〜! これで、私が最強であるという証明を……!」
振りかぶる彼女の拳は、グシャグシャに折れ曲がった指の骨が剥き出ていた。
黒い血液が流れ出している。
痛みは相当大きいのだろう。
でも、一歩も引く姿勢はない。
──せめて、苦しまないように。
私は指をピッ……っと横に引いた。
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