第43話 見限る瞬間





 セイント王国の王都では、激しい爆発音が響いていた。

 王国内各地で見られた『光』の災害。

 真っ赤な光が空から降り注ぎ、建物などを次々に破壊してゆく。


 王都の各所では、灰色の煙が幾つも上がっていた。


「わぁ! 派手にやってるね!」

 

「……聖女の動きもあるわね」


 夜の王都は、日中と同じくらいに騒がしいものだった。

 阿鼻叫喚の嵐。

 恐らく、民間人にも多くの死傷者が出ているはずだ。


「……これは、酷過ぎる」


 グラズは口元を押さえて、その凄惨な光景に心を痛めたような、酷い顔をしていた。

 現場となっている場所から少し離れた家屋の屋根の上で、私とグラス、そしてシノンの三人は、その光景をジッと眺めていた。

 逃げ惑う市民。

 それらを容赦なく殺して回るデューテの姿が、そこにはあった。


「聖女を誘き出すにしても……あれは、ちょっとやり過ぎね〜」


「そうね」


「……ノクタリアは、あんまり興味無さそうだね?」


「そんなことはないけれど」


「でも、なんか瞳が冷たかったから」


 ──シノンがそう感じたのなら、そうなのだろう。


 興味がないわけじゃない。

 善良な一般市民が苦しんでいる光景を見て、心は波立っている。

 ただ、私はそれ以上に失望しているのだ。


 デューテ。

 彼女は、闇堕ち聖女としての在り方を履き違えている。


「……デューテは、闇堕ち聖女失格ね」




 私の言葉にシノンも頷く。


「そうだね。超えちゃいけない一線を……あの子は、超えちゃったからね」


 


 ──私は今、とても憤っている。


 私たちは、無闇に人を殺していいわけじゃない。

 制裁を下すべき人間を裁く。

 それが、世界の理不尽を打ち砕こうとする闇堕ち聖女の在り方だった。

 けれども、目の前で残忍な行為をしているデューテは、その枠組みから外れた。


 闇堕ち聖女となり、手に入れた力を行使して、弱者を虐げている。

 己の自己満足のための殺し。

 それは、なによりも許されないこと。

 



 ……だから、あの子はもう、闇堕ち聖女などではない。







 単なる殺人鬼。

 怪物だ……。



「シノン、分かっているわね。予定変更よ」


「もちろーん。せっかくノクタリアが重い腰を上げて助けに来てあげたのに……本当に、デューテちゃんは裏切ってくれたよね」


 シノンは、手元に大きな槍を出現させる。

 そして、それをしっかりと握り、屋根から飛び降りた。


「ノクタリア様、彼女はどこに?」


 グラズが心配そうに尋ねてくる。

 私たちの会話から何かを察したのか、瞳が揺れていた。

 

「シノンは、デューテの処分に動いたわ」


「処分⁉︎」


「私たちの活動理念は、弱者を虐げる者への制裁。その私たちが、闇堕ち聖女としての力を振るい、何も悪いことをしていない人を無差別に殺害することは、許されない」


 だからこそ、道を踏み間違えた者の処分は、必要なのだ。

 デューテは、私たちを裏切った。

 闇堕ち聖女の誇りさえも失ったのだから、私たちに殺されても文句は言わせない。

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