第7話 制裁の時
烙印を押す用の熱した金属板を取るために、ノーマンは寝台から少し離れた。
「ふぉっ、今からわしの印を付けてやるから、熱いかもしれんが、我慢するんだぞ?」
自分の方が立場が上である。
そういう思い込みがあるからこそ、彼は余裕のある態度を続けていられる。
冷めた目で私は、ノーマンの後ろ姿を睨む。
間違いなく、この男は、私の制裁対象。
──どういう制裁が一番適切かしら?
散々、罪のない子供たちを連れ去り、奴隷としてきた。
彼を殺したとしても、奴隷としての烙印を押されてしまった子たちは、奴隷じゃない頃には戻れない。
その印は……決して消えない。
……人の一生を奪った罪は大きい。
ならば、制裁の内容は……終わることのない苦しみにしよう。
この男に相応しい。
散々自分がしてきたことを。
与えてきた苦しみを。
自らも味わうことで、正しく制裁は果たされる。
──ガチャンッ!
「……ん?」
金具が地面に落ちる音を聞き、ノーマンはこちらに振り返る。
そして、その表情は次第に曇っていった。
玉の汗が流れるのが、こちらから見ても明らかだ。
「な、何故……!」
理由は簡単。
私が寝台の拘束を無理やり解いたからだ。
寝台と連動していた金属の拘束具は、粉々になり、寝台から起き上がった私を見て、ノーマンは手に持った金属板を地面に落とした。
「罪人には、罰を……貴方には、蟲地獄がピッタリだわ」
私が寝台から降り、一歩近付くとノーマンは近くにあった鉄棒を構える。
「貴様ぁ……! さては、魔法使いだなぁ。わしを騙すなんて、ただでは済まさんぞ!」
私は手に武器を持っていない。
しかし、私のことを魔法使いだと思うのであれば、逃げた方が賢い選択だ。
少なくとも、扱い慣れていない鉄の棒を私に向けてくるよりはよっぽどマシだと思う。
私はスッと手をかざし、ノーマンを睨む。
「断罪の時よ。ノーマン=グリル=レドルフォン。貴方がこれまで他者に与えてきた苦痛を……その身で味わうことね」
ノーマンは気にせずこちらに駆けてきたが、もう手遅れだ。
彼の足は真っ黒な沼に引き摺り込まれるようにズブズブと沈む。
魔法によって、彼の行動は制限した。
「うわぁっ……! な、なんだこれ⁉︎」
後はもう、こちらの自由だ。
ノーマンは、最後の抵抗と言わんばかりに、手に持った鉄の棒をこちらに投げてくる。
しかし、素人同然の男が物を投げたところで、当たるはずがない。
首を軽く動かし、それを避けてから、私はノーマンの方へと近付いた。
「や、やめろ……来るなっ!」
「どうして、そんなに怯えているのですか?」
「お前……わしをどうするつもりだ⁉︎ まっ……まさか、殺す気じゃ……!」
「……何を言っているの? 私は貴方に制裁を下すために来たの。殺しに来た……とは意味合いが違っているわ」
そう、私の行う制裁は、ノーマンが怯えている死を与えるというものとは違っている。
そもそも死とはある種の救いだ。
苦しむことのない世界へと旅立つ、それは生きながら苦しみを味わうよりもよっぽと幸せなことである。
ノーマンは、それを聞き、やや表情が緩んでいた。
彼は、死を最も恐れていたのだろう。
けれども、私は今から……死んだ方がマシだと思えるほどの制裁を、この男に下す。
終わることのない苦しみを。
闇堕ち聖女ノクタリアからの贈り物として、捧げよう。
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