11.そうこなくっちゃ!

 今日もディノークス騎士隊の訓練所では、キアリカの大きな声が響き渡る。


「セルクッ!! 何度言わせるの!? そんな真っ直ぐな剣じゃ読まれるだけよ! もっと工夫しなさい!!」


 キアリカは己が打ちのめしたセルクにそんな言葉を浴びせる。彼は痛みと疲れでよたよたしながらも、「もう一度お願いしますっ!」と模擬剣を向けてくる。そんな彼を、キアリカは再度容赦なく打ちのめした。


「き、キアリカ隊長〜、半分は終わったよ〜……帰っていい〜?」


 ヨロヨロと戻って来たのは、もう一人の班長サイラスだ。


「まだ半分? どれだけ時間掛けてるの! もっと真剣に取り組みなさいっ」

「えーん。僕、執務は苦手なんだよーっ」

「さっさと行くっ!」

「キアリカ隊長の鬼ぃぃいいっ」

「なんですって!?」


 模擬剣をギュッと握ると、サイラスは転がるように逃げていった。

 後ろからは呆れたような低音ボイスが響いてくる。


「キアリカ、最近のお前は厳し過ぎる。成長のためとは言え、潰しては元も子もない」

「じゃあリカルドが隊長職を担ってくれればいい話でしょう? どう、交代してくれるかしら」

「……藪蛇だった」


 リカルドはそう呟いて逃げてしまった。あの男にその気がない以上、やはり若者を鍛え上げるしかない。


「セルク、立ちなさい。次は全体訓練の指揮を取ってもらうわっ」

「は、はい……っ」


 そう指示を出すキアリカの胸元に、キラリと光る物がある。

 もうディノークスの騎士の誰もが知っていた。

 それは恋人である帝都騎士団長、エルドレッドから貰ったものである、と──




 三年後。


 ディノークス騎士隊に新しい隊長が就任し、キアリカは隊長職を退いた。

 それだけでなく、ディノークス騎士隊を辞めた。


 誰もそれを引き留めることはしなかった。

 なぜなら全員、キアリカの望むことを知っていたからだ。


「総員、騎士団長に敬礼っ!」


 キアリカは声を張り上げる。

 今の地位は……なんと、騎士団長補佐である。

 またも屈強な男達を従えて、キアリカは壇上に立っている。

 夫であるエルドレッドの話が終わると、団員達に指示を与えてその場を解散させた。


「キアがいてくれると助かるな」

「ほら、のんびりしてないで、さっさと書類を片付けちゃいましょ!」

「ま、ちょっと厳しいけどな」

「早く終わらせて、今日は食事に行きましょうよ。ね?」


 キアリカがにっこりと音が出そうなほど笑いかけると、この夫は俄然やる気を出してくれるのだ。


「よし。じゃあデートの時間を作るぞ!」

「そうこなくっちゃ!」


 キアリカは結婚後、家庭に入ることはしなかった。

 いや、厳密に言うと少しだけ専業主婦をやっていたのだが、帰りの遅いエルドレッドをただ待つだけというのは性に合わず、帝都騎士団に入団したのだ。

 それまでの功績や実力を買われて、あっという間に団長補佐へとのし上がった。

 愛するエルドレッドの傍にいられるし、彼を手伝って早く仕事を終わらせられるし、一石二鳥である。


 帝都でも有名になったキアリカを、誰も悪くは言わなくなった。

 その実力は折り紙つきで、誰もが認めるところとなったのだから。

 強勇の美麗姫は強く優しく、世のため人のために尽くす女性の鑑だと、その二つ名はさらに広がっていった。



 さて、強勇の美麗姫は幸せになれたのか?


 答えは、イエス、である。


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『団長と美麗姫のハッピーバレンマイン』

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『素朴少女は騎士隊長に恋をする』

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強勇の美麗姫は幸せになれるのか 長岡更紗 @tukimisounohana

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