十三番目の鏡魔-4 攻略/完了
突如重々しい扉が大きな音を上げて開けられた。水の怪異も、剣女も、鏡魔も揃ってその方向を見る。扉の奥から煌びやかな金色の光が漏れ出ている。これは奥の部屋が攻略され、明かりが灯ったということだろう。
……一体誰が、つけたのか。
目に痛いほどに眩い黄金の中から人の影がゆらりと浮かび上がる。それは自分の腕を抑え、少しだけ足を引きずるようにこの部屋へ入ってきたのだった。そして、その姿が明らかになり、真っ先に剣女が「え」と呟いたのだった。
「なぜ、貴様が」
信じられないことだった。各部屋にそれぞれ怪異がいて、こぞって自分たちを狙ってきたはずだった。これを力のないただの一人間が対処できるはずがない。
だが、今少年はそこに立っている。
———近衛槙。
ずっと最初に閉じ込められた部屋で逃げ惑っていたはずの彼が、なぜここまで来ているのか。
『近衛槙が例外であるとどうして言い切れる』
大場の放った言葉が蘇った。しかし剣女は否定したい。近衛は普通の人間で、自分たちとは違う。戦う力など持ち合わせていない。ただの物好きな子供で、天の友人だ。そんなただの男が、まさか自分たちと同じだと———。
しかし、近衛槙の目はどこか虚ろだった。いつもの澄んだ目ではない。
(どうしてだろう。私は、あの瞳を———)
見たことがある。
「……こひゅー」
足下で死にかけていた大場が強く息を吹き返した。そして気の緩んだ剣女を押しのけ、扉の前で枯れ木のように立っている近衛の元に駆けだした。咄嗟に剣女が捕まえようにも、その刃は届かない。
「逃げろ近衛!」
剣女は叫ぶも、彼はぴくりとも動こうとしない。まるで彫刻のようで、無機物のようで、いつもの近衛槙ではないということは瞬間的に理解できてしまったのだった。
そして、大場は消された。
少年の足元に剣が落ちていた。怪異としての命が取られ、ただの武器と化した骸である。それをふらりと取り上げ、彼は調子を確かめるように何度か振った。そして襲い掛かる怪異を、居合で撫で切った。
大場はふらつく。目も大きく見開かれている。なぜ? どうして? と。そして瞳孔に捉えられた少年の姿があまりにも「真っ黒」で、無意識に後退したのである。
近衛槙はコレを、追った。一歩踏み込む——のではなく、浮かせ、初動が見えないほど滑らかに距離を詰めて見せた。そして、
近衛は大場を囲むように次々と飛び跳ね、連続して肉体を切裂いていった。
それはどこか、演武のようだった。
そして、大場は消された。
その一連の流れに剣女は驚愕していた。今の動き、間違いなく———
「……京八逆流」
それは剣女が先ほど使おうとした剣術。脳の奥に眠っていた、正体もわからない記憶。
どうして近衛槙が、それを使う?
疑問の堪えない彼女だったが、近衛の目がふとこちらを向いたことに気づいた。彼は霞んだ瞳のまま微笑み、気を失うように倒れたのだった。
「近衛……近衛!」
いてもたってもいられなかった。この男が一体何をやったのか。どうして自分と全く同じ技を使ったのか。何もかもがわからず。されど、心の中の天が震え始めたのを感じ取り剣女は駆けつけるのだった。
そして、意識が反転し、肉体は天に返される。
「近衛くん! どうしたの……ねえ、近衛くん!」
何度も揺さぶられても近衛槙は目を醒まさなかった。天は彼の手を掴む。そして祈るように名前を呼び続けたのだった。
残り少ない時間、鏡魔はそんな二人の様子を舌なめずりしながら見ていた。
「……あら、近衛って子……そういうこと?」
ちっとも興味の湧かなかった鏡魔だったが、近衛の姿を見た瞬間に酷く捻じれた、「面白そう」という感情が生まれ始めたのだった。
剣女も天も、彼の真実に気づいていない。今この場で、鏡魔だけが気づいている。そして瀬古逸嘉の目的を同時に察した。その果てを、男の浅ましい願いを。悪魔は嗤って歓喜したのだった。
「アレ、ワタクシたちとは比べ物にならないくらいグロテスクじゃない!」
時間が経つ。
十三分を以て、「十三番目の鏡魔」は、十三番目の鏡の世界に帰っていったのだった。
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黒塗り……非攻略
白塗り……攻略済み
☆……エイダと剣女と近衛槙の現在地
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