反転する鳥籠-2 迷宮/作戦
———数刻前、最東列4番目、金の部屋。
「びーっくりしたぁ……」
エイダはぺたりと床に腰を降ろした。天が怪異から逃げ回っている間にエイダは金の部屋に潜んでいた怪異を全て壊滅させ、その後息をついて周りをきょろきょろと見回していた。あちこちに砕かれた宝石が散らかっている。
「急に襲ってきたからつい倒しちゃったけど大丈夫だったかな?」
身体の中の怪異たちに話しかけてみると、沢山の声がざわざわと胸中に広がっていった。
「電気もついたね。やっぱりカフェから飛ばされたみたい……天ちゃんとマキはどこだろ?」
すると部屋の隅から三つの小さな玉のような光が集まってきた。
「おかえりリリー。えーと……そっか、やっぱり怪異さんなんだ。急に襲ってくるなんて悪い子だねー?」
掌に集まる輝きにエイダは笑いかける。
しかし徐々に目を細めてうーん、と喉を鳴らしたのだった。
「天ちゃんなら大丈夫だろうけどマキが心配……あの人、戦えるわけじゃないんでしょ? 真っ先に見つけないとダメかなー」
『リリー』と称された光が体内に戻って行ったのを確認するとエイダは扉の方に向かった。その間一人でうんうんと頷き続けている。
「電話も繋がらないみたいだし……そっか、他の部屋も同じなんだね。じゃあまたお仕置きしないといけない……うーん疲れちゃうのはやだなー」
足を止めて唸っていると怪異の内の一人が声をあげた。
「え? ここからみんなと連絡するの? どうやって? ……へー! そんなことできるんだ! じゃあちょっと貸してあげるね!」
エイダはウキウキで一回転した。みるみるうちに髪の色と長さ、背丈が変わっていく。
「……ふう、私も初めてだから、上手くできるかわかんないけど……」
エイダに替わって現れたのは黒髪の和装少女、佐々木瑠璃。
彼女は震える息を落ち着かせ、二回ほど手を叩く。そして地面に力強く手を貼り付けた。
「詠唱は……えーとなんだっけ……あ、『迷いて繋いで視つけだせ』! 佐々木迷宮、簡易解放!」
瞬間、瑠璃の意識が建物全体に行き渡っていく。
かつて彼女が使っていた佐々木迷宮———侵入者を取り込み我が物とした力を簡潔化し、アレンジを加えることで発動した。建物の構造、現在起こっている事態、近衛槙と天の居場所が瞬時に頭の中に入っていく。
「———いっ!? 真ん中の部屋だけ、視れない……なにこれ……」
ただ一つ。館の中央に位置している部屋だけが黒い靄で覆い隠されていて視認することができなかった。
「うーん……でもとにかく二人と繋がった! もしもし、もしもーし! 聞こえる? 天のお姉さん、あとお兄ちゃん!」
『……佐々木瑠璃?』
先に反応を返したのは天———否、剣女だった。瑠璃の目に顔を拭っている剣士の顔が映し出される。
「うん、今迷宮使ってみんなと意識繋げてるんだけど……あれ、お兄ちゃん聞こえる? 顔が見えない……」
『エイダ、いや瑠璃か。貴様今どこにいる? 天と食事処にいたはずじゃなかったのか』
「んーとそうなんだけど……急に襲われてバラバラにされちゃったみたい。今私たちは一番東側の……北から四番目の部屋にいる!」
『私の場所は把握できるか? そこからどれほど遠いのか判断がつかん』
「えっと、剣士さんは一番西側の一番北の部屋……結構遠い。お兄ちゃんは東側二番目の一番北にいるんだけど、もしもし、もしもーし! お兄ちゃん!」
『……本当に奴とも繋げているのか?』
「繋げてるよー! ちゃんと生きてるのわかるし声も届いてるはずなの! でも全然返ってこなくて……」
『ちっ……状況が全く掴めん。私はこの部屋で怪異とやりあったが、そっちも同じか?』
「うん……エイダちゃんがすぐに倒して、そしたら電気がついて……」
『同じか。なら奴も何らかの怪異から逃げ回っている可能性が高い。貴様たちが一番近いだろう、すぐに向かえ』
『———待って! この部屋には来ちゃダメだ!』
突如、会話を遮る形で近衛槙の声が耳に入ってきた。
「お兄ちゃん!? 今大丈夫なの!?」
『ぜんっぜん大丈夫じゃないけど……とにかくここに来たらダメだ! 二人の力が盗られる!』
『……何? どういうことだ』
剣女が聞き返すも返ってきたのは何かが壊れるような音だった。
『とにかく、俺の指示に従ってくれ! これはゲームだ!』
「ゲーム……?」
『二人とも、今、部屋を明るくしただろ!? 同じ感じで、一直線になるように他の部屋の電気も付けていくんだ! そうしたらここから出られる!』
『それが怪異の攻略法か? そいつの正体はなんだ』
『———リバーシ、ウォッチング! そうアイツは言ってた! ここの館長が!』
息も絶え絶えになりながらも近衛は情報を伝え続けていた。瑠璃は額に冷や汗を流していた。
『ビンゴみたいな感じで揃えていくんだよ! そうしたら何とかなるから……でも、俺の部屋は通らないようにしてくれ!』
「……あれ、お兄ちゃん? お兄ちゃん!」
電源が落とされたかのように、繋げていたはずの近衛槙の意識が途切れた。
彼の慌ただしくも力強い口調に、瑠璃の心臓の鼓動は跳ね上がっていた。同様に話を聞いていた体内の怪異たちもみな震えているようだった。
『……エイダ、聞こえていたな。今から真っすぐに西側の部屋に向かえ。そうすればすぐに明かりのついた部屋を揃えられるはずだ。私もこの列の四番目の部屋に行く』
「ちょっと待って剣士さん! お兄ちゃんは!?」
『力を盗られると言っていた。奴が言うなら真実だろう。行くべきじゃない』
「そんな……!」
『だからこそさっさと終わらせる。貴様と私だ。並大抵の怪異など相手にもならんだろうが』
「……」
恐る恐る話を聞いていたエイダに意識を向けてみる。彼女は……
———いいよ! 行こ!
と、あっさりと返してみせたのだった。
「……わかった。とりあえず意識は繋げたままにしておくから」
渋々と納得し、瑠璃は身体をエイダに返した。
ドレス衣装の彼女は身体を伸ばし、意気揚々と口を開いた。
「よーし! 美術館大攻略作戦、開始だー!」
現在の鳰下町ミュージアム占有状況
△■■◆■
■■■■■
■■■■■
■■■■〇
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黒塗り……非攻略
白塗り……攻略済み
△……剣女の現在地
〇……エイダの現在地
◆……近衛槙の現在地
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