第53話 有村蘭子の驚愕7


勝負は一瞬だった。


少なくとも有村にはそう思えた。


オーガキング対雨宮裕太の戦い。


その結果は、雨宮裕太の圧勝に終わった。


「グラビティ」


雨宮裕太が聞いたこともないスキルを発動した。


『グォオオオオオオ!?!?』


次の瞬間、地面に膝をつかされるオーガキング。


Sランクモンスター、その最強格のオーガキングの筋力を持ってしても抗えないスキル。


一体どれほどの威力なのか、計り知れない。


「スキル……『水球』」


得体の知れないスキルの後に裕太が発動したのは、有村でも発動できる最弱スキル、『水球』だった。


バシャ…


『水球』はオーガキングの体に当たって弾ける。


『グォオ…』


当然ダメージにはならない。


一体何をするつもりなのか。


そう疑問に思った有村は、次の瞬間に答えを得ることになる。


「スキル……サンダー!!」


バリリッ!!!


轟音がダンジョンの空間を蹂躙した。


放たれた高威力の雷のスキル『サンダー』。


攻撃のスキルの中で最上位に位置するスキルの一つであり、有村は存在は知りながらも実際に見たのはこれが初めてだった。


『グォオオオオオオ!?!?』


雷のスキルは、水に濡れたオーガキングの図体を容赦なく蹂躙した。


オーガキングは地面に倒れ伏し、何度か痙攣

したのち動かなくなる。


オーガキングの体から黙々と煙が上がった。


決着はついた。


ほんの1分にも満たない間の出来事だった。




「なんで僕を尾行してたんですか?」


「えっと、それは…」


その後、有村は雨宮裕太に尾行の理由を問い詰められることになった。


有村は正直に裕太が心配だったからと話した。


裕太は有村に悪気がなかったことを認めて許してくれた。 


一連の会話の間、有村はどこか上の空だった。


それは雨宮裕太の強さがあまりに規格外だったからだ。


この男は一体何者なんだろう。


まだ成人もしてない学生のみでありながら,明らかにSランクを超える実力を備えている。


Sランクの最強格、オーガキングをたった一人で、しかも1分にも満たない戦闘時間で倒すなんて前代未聞だ。


今までにそんな話は聞いたことがなかった。


この人はきっと神か何かなのかも知れない。


有村は冗談ではなくそんなことを思った。


少なくとも、今までに観測されたことのないような最強のユニークスキルを持っていることは確かだった。


…こんな化け物の身を一瞬でも案じてしまった自分が馬鹿馬鹿しい。


有村はそんなことを思いながら、尾行したことを何度も謝り、裕太とともに地上へ戻った。


探索者センターまで戻ってきた有村はその後、自分の業務をこなした。


裕太に一千万円を超える報酬を渡し、裕太に『なすりつけ』という犯罪を行った紅の双剣というパーティーに必ず報いを受けさせることを約束した。


裕太は報酬を受け取ると満足そうに帰っていった。


有村はその背中をただぼんやりと眺めていた。


「あら、蘭子。どうだったの?ちゃんと守ってあげたの?あなたは大丈夫だった?無事だったの?」


「…」


「おーい、蘭子ー?」


自分がいない間、業務を任せていた同僚がそんなふうに話しかけてくる。


おそらく彼女は、有村があの雨宮裕太を守り、ダンジョンから連れ帰ったと思っているのだろうが大間違いだ。


守られたのは有村の方だった。


もしオーガキングが現れたあの場に自分しかいなかったら間違いなく命を落としていただろう。


…だが、今日ダンジョン内で起きたことを全て話しても信じてもらえそうにもなかった。


「どうしたの?ぼんやりして。何があったのか教えなさいよ」


「…特に何もなかったわ」


「はぁ?」


結局、有村は同僚に起きたことの説明を諦めるより他になかったのだった。





〜あとがき〜


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そちらの方もよろしくお願いします。








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