第52話 有村蘭子の驚愕6
「逃げてください!!」
咄嗟にオーガキングと裕太の間に入って行った有村は、オーガキングと対峙しながら背後の裕太に逃げるよう促す。
「…はい?」
「危険です!!このモンスターの名前はオーガキング。ランクはSです。あなたの手に負えるようなモンスターじゃない!!」
裕太はおそらくオーガキングを倒せると思っているのだろう。
裕太ほどの実力を、裕太ほどの若さで手に入れていれば、その自信もわからなくもない。
だが、オーガキングはSランクの最強格。
Sランク冒険者がパーティーを組まなければ倒せないようなモンスターなのだ。
いくら実力があれど、学生一人で倒せるようなモンスターではない。
「いやいや、急にどうしたんですか。というかなんであなたがここにいるんですか?」
焦っている有村に対して裕太は呑気なものだ。
窮地に陥っているという自覚がないのか、なぜ有村がここにいるのかを尋ねてくる。
「今はそんなこといいですから!!早く逃げてください!!ここは私が引き受けます!」
有村はそう言って覚悟を決めた。
もうこうなったら自分はどうなってもいい。
将来確実にこの国に多大な貢献と恩恵をもたらしてくれるであろうこの若い才能を逃すためなら、自分がここでオーガキングを引き止めて犠牲になったとしても…
「いや、それ僕のモンスター…」
「あなたには手に負えないと言っているでしょう!?Sランクモンスターですよバカなんですか!?」
やっぱり裕太はことの重大さを理解していないようだった。
必死に有村が裕太を逃がそうとしているのに、裕太はまるで獲物を横取りでもされたかのような悲壮な表情をしている。
『グォオオオオ…!!』
「危ないですよ。どいてください。こいつは僕の獲物です」
「いいえどきません!!ここまでついてきたのに……あなたを簡単に死なせるわけには行かない!」
「だからなんなんですかあなた…なんで僕の探索の邪魔をするんだ…?というか本当危ないですよ」
『グォオオオオ…!』
そんな呑気な会話をしている間にオーガキングが咆哮し、牙を剥き出しにして突進してくる。
「す、スキル……ええと、『障へ…」
有村は咄嗟に、防御スキルの一種である『障壁』を展開しようとするが…
スルッ…
「あれっ!?」
オーガキングは目の前にいる有村をスルーして背後にいる裕太へと突っ込んでいった。
「はっ!?しまった!?囮スキルの効果
が…!?」
有村は裕太にはヘイトを集める囮スキルの効果がかかっていることを思い出す。
「で、デコイ…!」
有村は咄嗟の判断で、自分に対してデコイスキルを使ってオーガキングのヘイトを無理やり自分に向けた。
『オガ…?』
裕太に迫りつつあったオーガキングが足を止め、くるっと有村の方を向く。
「…っ」
赤く光る目に見下ろされ、思わず体がブルリと震えるが、しかし逃げるわけにはいかない。
少しでも時間を稼いで裕太を逃さなければ…
「デコイ」
「…!?」
次の瞬間,裕太が即座に自分に足して囮スキルを発動した。
オーガキングの標的が裕太へと戻ってしまう。
「いやいや、何してるんですか!?死ぬ気ですか!?」
有村は正気とは思えない行動をとる裕太に目を剥く。
せっかく自分がヘイトを買ったというのに、なぜ台無しにするのだろうか。
「デコイ!」
再度有村は囮スキルを使う。
『オガァ…』
「……(どうして!?)」
しかし今度はオーガキングのヘイトは有村へ向かなかった。
どうやら裕太の使った囮スキルの方が強力だったようだ。
「ふふふ。どうやら僕の囮スキルの方が威力が強かったみたいですね」
裕太がドヤ顔でそんなことを言う。
「だめぇええええ!!!逃げてぇええええええええ!!!」
「お前は僕の獲物だ。逃さないよ」
そしてとうとう、有村の努力も虚しく、オーガキングと裕太は完全に戦闘状態へと入ってしまうのだった。
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