第50話 有村蘭子の驚愕4



オークを倒した裕太はA58ダンジョン第二層を突き進んでく。


有村蘭子はもはや裕太を守るためではなく、そこしれない裕太の実力を見てみたいという好奇心に突き動かされて尾行を継続する。


「……(雨宮裕太…一体あなたはどこまで強いというの?)」


危険な高ランクダンジョンの通路をまるで家の庭のように堂々とした足取りで進む裕太を、有村はワクワクしながら見守る。


やがて裕太の前にオークの群れが立ちはだかった。


『ブモォオオオオオ…!!』


『ブモブモ!!』


『ブモォオオオオオオ!!!』


Bランクのオークの十匹弱の群れ。


群れとしての脅威度のランクはAに相当するだろう。


有村が一人で戦ってギリギリ帰るかどうかという強さ。


普通ならこの時点で飛び出していって裕太とともに第二層の出口を目指して逃げ出すのが賢明な判断というものだろう。


だが、有村はそうはしなかった。


一切手を出さずに見守ることを選択した。


雨宮裕太なら何かしてくれるという期待感があった。


雨宮裕太は、たとえ十匹近くのオークの群れでも簡単に倒してしまうのではないかという予感があった。


「……(どうするの?雨宮裕太。逃げるの?戦うの……?……戦うようね)」


雨宮裕太の表情に恐れや迷いはなかった。


それどころか、まるで簡単に仕留められる獲物を見るかのような目をオークたちに向けている。


「……(あれだけの数…一体どうやってこう略するつもりなのかしら)」


ごくりと喉を鳴らした有村が見守る中、いよいよオークの群れが裕太に向かって迫りつつあった。


『ブモォオオオオ!!!』


『ブモブモ!!』


『ブモォオオオオオ…!!』


ほぼ全員による突進攻撃。


全てを避けるのはほぼ不可能。


つまり迎撃しなければならないのだが…


「ーーーー」


裕太が何かしらのスキルを使用したことが有村にはわかった。


迫り来るオーク。


次の瞬間…


「え…?」


有村は思わずそんな声を漏らしていた。


裕太の姿が、幾つにも分身したからだ。


ダンジョンの広い通路の至る所に、裕太の姿をした虚像が現れる。


「……(あれは…おそらく分身スキル!そんなレアなスキルまで持っているの!?)」


有村には裕太の使用したスキルに見覚えがあった。


あれは相手を撹乱するためのスキル『分身』だ。


裕太以外に使用する人間を、有村は一人しか見たことがなかった。


それほどまでのレアスキルを……どうして学生の身分である裕太が所持しているのであろうか。


…いや、そんなこと雨宮裕太にしたら今更か。


『ブモ!?』


『ブモブモ…!?』


裕太の撹乱スキル『分身』はオークの群れに対して効果的に働き、オークたちは混乱したように分身を見回している。


「……(さて、ここからね…突進攻撃はこれで防げたけど…どうするつもりなの?)」


『分身』のスキルはあくまで敵を撹乱するためのものであり、直接攻撃をするものではない。


撹乱され、混乱状態のオークの群れにどのようにして裕太が攻撃を行うのか、有村はじっと見守る。


「ーーーー」


またしても裕太がなんらかのスキルを使用した気配があった。


それがなんなのか有村にはわからなかった。


だが、次の瞬間、裕太の分身は消えた。


攻撃準備が整ったということだ。


『ブモォオオオ!』


『ブモブモ…!』


分身が消えて再び一人になった裕太へ、オークたちが近づいていく。


二者の距離が、ほとんど一メートル付近まで迫った次の瞬間、裕太の姿がかき消えた。


そして……


「……(……っ!?……!?!?)」


オークの群れのど真ん中に暴風雨が出現した。


『『『ブモォオオオ……!!』』』


オークたちの悲鳴がダンジョンの通路に反響する。


「……(なになになに!?どういうことなの!?何が起こってるの!?)」


打撃音が、怒涛の如く響き渡り、周囲を蹂躙する。


オークたちのど真ん中に出現した暴風雨はどんどん勢いを増していき、巻き込まれたオークたちはなすすべなくミンチにされていく。


ダンジョンの壁に、オークたちに血肉が臓物がこびりついていく。


『ブモォオオオオ!?!?』


『ブギィイイイイイ!?!?』


オークたちは聞いたこともないような悲鳴をあげながら死の暴風雨から逃げようとするが間に合わない。


結局十匹弱いたオークたちは一匹残らず暴風雨に刈り取られ,後に残ったのは原型を留めていない肉塊と血溜まり。


気づけば暴風雨は収まり、その中心には済ました表情の雨宮裕太が立っていた。


有村は口をぱくぱくとさせたまま、何も言えなくなってしまう。


彼女には、おそらく裕太が目視できないスピードで動き、オークたちを蹂躙した、ことぐらいしかわからなかった。


「……(オークの群れをたった一人で……凄まじい破壊力の攻撃……私がここまでついてきた意味って…)」


自分は馬鹿だ。


こんな化け物がダンジョンで死ぬのではないかと心配したのだから。


「大漁大漁」


オークの群れを蹂躙した裕太は、鼻歌を歌いながらオークの魔石を拾い集め、収納し、何事もなかったかのように歩みを再開させた。


呆然とその場に突っ立っていた有村が我に帰って動き出すのにそれからしばらくの時間を要した。

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