第49話 有村蘭子の驚愕3



有村の予想に反してなんの苦労もせずにA58ダンジョンの第一層を抜けた雨宮裕太は、なんの迷いもなく第二層へと足を踏み入れた。


ここからは第一層に出現するような雑魚ではなく、しっかりと経験を積んだ冒険者にしか倒せないような強いモンスターが出てくる確率がグッと上がる。


ベテランですら警戒しながら進むはずの第二層の道のりを、雨宮裕太はなんの躊躇いもなくどんどん奥へと進んでいく。


「……(いくらなんでも歩き方が無警戒すぎるわ……まるでどこからモンスターが出てきても対処できるという自信の表れみたい……どういうことなの?)」


有村は裕太の自身げな足取りが、本当の強さからくるものなのか、それとも実力の過信からくるものなのか、どちらか判断がつかなかった。


尾行を始めた時点の彼女なら間違いなく、空虚な過信だと断定しただろうが、裕太の第一層での戦いを見た有村には,簡単には判断がつかなかった。


「……(第一層のあれはたまたまなの…?それとも実力…?見極めないと…)」


この第二層で裕太の実力を見極める。


そのつもりで有村は慎重に、気配を気取られないよう相変わらず『隠密』スキルを発動させながら、尾行を続ける。


『ブモォオオオオオ…!!』


ライトという照明スキルを発動しながらどんどん第二層の奥へと進んでいく裕太の前に、一匹のモンスターが立ちはだかった。


「……(オークね……一気にBランクの出現…これはどうなるかみものね)」


突如として裕太の目の前に現れたのは、Bランクのモンスター、オークだ。


第一層では最弱格のゴブリンやその上位種のみしか出現しなかったにも関わらず、第二層に入っていきなりBランクのモンスターの出現。

これこそがAランク以上の高ランクダンジョンが危険と言われる所以だ。


出現モンスターが徐々に強くなるのではなく、いきなり二つも三つも平気でランクが上がったりするのだ。


「……(どうなるのかしらね…ゴブリンの群れや、アーチャー、ウィザードは倒せても、流石にオークは厳しいんじゃないかしら)」


有村は裕太がピンチに陥った時にすぐに助けに行けるように準備をしながら、戦いの経過を見守る。


『ブモォオオオオ…!!!』


「…」


オークと対峙した裕太に焦りはなかった。


無感情な瞳で、オークを見据えている。


『ブモォオオオ…!!!』


オークの突進。


裕太は動こうとしない。


「……(危ない…!)」


有村が出て行こうとした、次の瞬間、オークの下の地面にいきなり亀裂が入った。


『ブモォオオオオ!?!?』


オークが、まるで見えない何かに引っ張られているかのように地面に膝をついてしまう。


「……(えぇえ!?どういうこと!?)」


有村が戸惑う中、ヒビが入り若干陥没した地面に縛り付けられたかのように膝をついているオークに向かって裕太は悠々と歩いていく。


そして彼の膝のあたりにあるオークの頭部に向かって迷わず踵を振り下ろした。


グシャ…


オークの頭部はそれだけで破裂し、オークは絶命した。


「…」


あまりに一方的な戦いに有村は何も言えずに呆然とする。


裕太はこれまで通り、ダンジョンが死体を吸収するのを待ってから魔石を拾い上げ、収納し、そのさきへ歩いていった。




「……(これ私きた意味あるのかしら?)」


もはや認めざるを得なかった。


Bランクモンスターのオークを一瞬で倒してしまった雨宮裕太。


あれだけの実力差のある戦いをオークに対してしてみせたのだから、彼の実力はおそらくAランク相当。


ひょっとすると自分の全盛期よりも学生で未成年の雨宮裕太の方が強いかもしれない。


「……(き、杞憂だった……ただの奢った学生かと思ったけど違った……彼には実力がある……高ランクダンジョンでも通用する力が…)」


もはや雨宮裕太のことを有村が心配する必要はないのだろう。


あれほどの実力があれば、このダンジョンの深層へは辿り着けないかもしれないが、自分の身を守りながら地上へ帰還することぐらいはわけもないはずだ。


尾行の必要は無くなった。


…はずなのに。


「……(みたい…あの学生の戦いを……一体どこまでやれるのか…)」


有村は裕太の尾行をやめなかった。


いや、やめられなかった。


有村は見てみたくなったのだ。


裕太の実力が一体どれほどのものなのかを。


Bランクのオークを瞬殺した裕太。


まだまだ強い力を秘めている可能性がある。


有村は裕太の本当の実力を確認したくなったのだ。


「……(もしかしたら本当にSランク相当の実力を…?いや、流石にそれは……学生でSランク相当なんて聞いたことも……けれど、底が見えない…一体どこまで強いの雨宮裕太…)」


有村はもはや当初の目的すら完全に忘却し、ただただ好奇心に突き動かされて裕太をひたすら尾行するのだった。

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