第47話 有村蘭子の驚愕
有村蘭子は、突然やってきた無謀な探索者育成高校の新入生、雨宮裕太を死なせないために、A58ダンジョンに潜ろうとしている裕太を密かに尾行することにした。
有村の計画では、こっそりと裕太に気づかれることなくダンジョンを進んでく裕太を尾行し、裕太がピンチになったところで助ける。
そして高ランクダンジョンの危険さをその場で説くつもりだった。
そうすれば、この雨宮裕太という学生は二度と一人では高ランクダンジョンに潜ろうとはしなくなるだろうと思ったのだ。
「どうせすぐにピンチになるわ。おそらく低層で…」
A58ダンジョンの低層に出現するモンスター程度であれば、元Aランクの自分なら簡単に対処できるはずだ。
裕太はおそらく低層ですぐに窮地に立たされるはず。
だから裕太がピンチになったらギリギリのところで自分が出ていって助けてやり、ダンジョンの恐ろしさというものを身をもって知ってもらう。
有村蘭子の計画は大体そんなものだった。
「さて…ひとまず窮地に陥るのを待ちましょうか。すぐに助けてもダンジョンの怖さはわからないでしょうから」
有村は裕太に気づかれないように物陰に身を隠しながら、ダンジョンの中を進んでいく裕太を尾行した。
『グゲゲ…!』
「……(ゴブリンね。まぁ、このくらいなら探索者育成高校の生徒なら単独でも倒してしまうでしょうね)」
最初に裕太の前に立ちはだかったのは最弱モンスターの一角のゴブリンだった。
有村は裕太の実力を見られる良い機会だと、物陰から戦闘模様をこっそり伺う。
「……(ん?あれ?)」
だが、有村はきっちりと裕太の戦闘の様子をしっかりと見ることが出来なかった。
裕太とゴブリンの戦闘は、本当に一瞬にして終わってしまったからだった。
「……(動きが見えなかった…どういうこと?)」
気がついたら裕太はゴブリンの目の前におり、回し蹴りがはなたれていた。
ゴブリンは一瞬で肉塊へと変わり、死体はダンジョンが吸収、地面には魔石が残された。
「……(は、早すぎる……元Aランクの私でも目視できない速さだなんて……もしかしてスキルかしら?流石にスキルよね。素の敏捷じゃないわよね?)」
裕太はなんのスキルも使わず、純然たる身体能力のみで最初の戦闘をこなしたのだが、動きを捉えられなかった有村はスキルの力だと解釈した。
「……(ま、まぁゴブリンくらいは流石にね……ここまで一瞬で戦闘が終わるのは予想外だったけど……でもゴブリンに勝ったからなんだっていうの。そのうち窮地に陥るに決まってる…)」
予想外の初戦の結果に有村は若干戸惑いつつも、裕太の尾行を続けた。
『グゲゲ…!』
『ギィギィ!!』
『グギィイイイイ!!!』
次に裕太の目の前に立ちはだかったのは、ゴブリンの群れだった。
しかも五匹や六匹ではない。
二十匹を超える、かなりの大群だった。
「……(これは早速私の出番かしらね)」
いくらゴブリンといえど二十匹も集まればそれなりの戦力だ。
有村は早くも裕太がこのゴブリンの群れを倒しきれずに窮地に陥ると踏んだ。
そしていつでも助けに入れるように身構えておく。
だが、今度も有村の予想に反して、裕太は一瞬にして戦闘を終わらせてしまった。
「…〜…〜…」
裕太が何事か口にし、なんらかのスキルを発動した。
次の瞬間、裕太に近づきつつあったゴブリンたちがバタバタと倒れていった。
「……(嘘!?どういうこと!?)」
裕太はゴブリンたちに直接何かしたわけではない。
しかしゴブリンたちはまるで生気を吸われたようにその目から覇気を失い、次々に地面に倒れていったのだ。
これには有村も驚いた。
スキルの力なのは確かだが、しかしこれだけ数のモンスターを一度に倒せてしまうスキルなど聞いたことがない。
「……(おそらく相手の体力を減らしたりもしくは吸い取ったりする弱体系のスキルなんでしょうけど……でもそういうスキルは大抵、対象は一人に絞られるはず……範囲攻撃の弱体化スキルなんて聞いたことない…私が知らない未知のスキルを雨宮裕太は持っているというの…?本当に学生…?)」
有村は自分の目の前の光景が信じられず、一瞬スキル『スリープ』でゴブリンを眠らせただけなのではと思ったが、しかし次の瞬間にはダンジョンの床によるゴブリンたちの吸収が始まっていた。
眠らせたのではない。
やはり雨宮裕太はゴブリンを殺したのだ。
「……(一体どうやって…)」
有村が呆気に取られていると、裕太が一瞬だけ背後を振り返った。
そして有村が身を潜めている暗闇をじっと眺めてくる。
「……(嘘!?ばれた!?あり得ない。私は隠密スキル発動中なのに…)」
有村は現在スキル『隠密』によって自分の気配を隠している状態だ。
もしその状態の有村の気配を察知したということになれば、それはスキルの効果が通用しないほどに雨宮裕太のステータスが有村のそれを上回っているということになる。
だが、未成人の学生が元Aランクの有村のステータスを大きく上回るなんてあり得ない。
「……(大丈夫。ばれているはずなんてない…大丈夫…)」
有村はそう言いいかせてその場にじっとしていると、やはり見つかったわけではなかったのか、裕太は再び前を向いて歩き出した。
「……ほっ」
有村はばれていなかったと思い、ほっと胸を撫で下ろす。
本当は裕太は彼女の存在に気づいており、ただ単に放っておいただけなのだが、そのことに有村は全くもって気づいていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます