第43話 A58ダンジョン攻略4
オークの群れを屠った僕は、そのまま第二層を踏破し、第三層へと足を踏み入れた。
ちなみに、例の尾行者の気配はいまだに僕の後ろにある。
僕はもうその存在には気を払わないことにした。
別段これまで僕に何か害を与えているわけでもないしね。
放っておいたらそのうち消えると思う。
というかここはもうAランクダンジョンの三層で、それなりに強いモンスターも出現すると思うのだが大丈夫だろうか。
この階層に出てくるモンスターにも対応できる強者ということか?
いや、そんなこと僕が気にすることでもないか。
「さて…それはそれとしてモンスターがなかなか現れないな」
第三層に踏み込んでから随分経つがいまだにモンスターとのエンカウントがない。
ダンジョンは下層に行くにつれてモンスターのレベルは上がるが出現頻度は下がる。
だから、第一層と二層に比べてこの三層がモンスターの出現頻度が低くなるのは頷ける。
だが、それにしてもあまりにもモンスターに出会わなすぎる。
「なんか嫌な予感がするな…」
イレギュラー。
ダンジョンで起こる、異変。
そんな文字が僕の脳裏を掠めたその時だった。
『グォオオオオオオオ…!!!』
前方から空気を震わせるような巨大な咆哮が聞こえてきた。
「うおおおおおお!?!?」
「ひぃいいいいい!?!?」
「に、逃げろぉおおおお!!!」
「イレギュラーだぁああああ!!!」
それと同時に、前方から何人かの探索者と思しき人たちがこちらに向けて全速力で走ってきた。
彼らの背後には、ずしんずしんと重々しい足音を立てながら大股で近づいてくる巨大なモンスターがいる。
「オーガ・キングとか冗談だろ!?」
「なんでここにSランクモンスターが出るんだよ!?」
「こんなの勝てるわけねぇ!?」
数名の探索者がそんな悲鳴のような声を上げながら全速力で走ってくる。
「なるほど。オーガキングが出たのか」
僕は彼らが血相を抱えて走っている理由を理解した。
『グォオオオオ…!!!』
彼らの背後にいる巨大なモンスター。
あれはSランクのオーガキングだ。
Aランクのダンジョンにおいて、低層からいきなりSランクのモンスターが出現することはまずない。
だが、僕らの目の前にいるあれはどう見てもSランクのオーガキング。
ということは。
「イレギュラーか」
僕の予感は正しかったようだ。
イレギュラー。
それはダンジョンで突如として起こる異変。
主に、その階層に出現するはずのないモンスターが出てきたりといった形で現れる唐突の変化。
イレギュラーの前には前兆があると言われているが、ここに至るまで一匹もモンスターに出会わなかったのがそれか。
「くそ!厄日だ!!なんて運が悪い…!」
「出口まで体力が持たねぇよ!!」
「どうすんだ!?」
「お、おい、あれみろ…!あっちに探索者がいるぞ…!!!」
全速力でオーガキングから逃げている探索者たちが、僕の存在に気づいた。
彼らの表情に助かったという感情が浮かぶ。
「あ、あいつに…」
「ああ、仕方ねぇ」
「四人が死ぬより、一人が死んだ方が…」
「あいつには申し訳ないが…」
彼らの笑みを見て、僕はこれから何をされるのかを悟った。
「デコイ…!」
逃げている探索者たちがすれ違いざまに、僕に囮スキルを使ってきた。
囮スキルは、モンスターのヘイトを一手に引き受けるためのスキルだ。
それを、他の探索者に使う行為は、『なすりつけ』と言って犯罪行為だ。
だが、ダンジョンでの犯罪行為というのはなかなか立証しにくい。
そういう理由から、探索者の間では、ピンチになった時にモンスターを他の探索者に『なすりつける』行為が横行していたりするのだ。
「じゃあな!」
「運が悪かったと思って諦めてくれ!」
「すまんな!」
「あんたの顔は忘れねぇよ」
そんな捨て台詞と共に四人は僕のわきを通り抜けていった。
Sランクモンスター、オーガキングを僕になすりつけて。
「マジかよ。マナー悪いなぁ。別にいいけどさ」
僕は四人の探索者の素行の悪さにため息を吐きつつ、オーガキングを見上げた。
『グォオオオオオオオ…!!!』
オーガキングは、囮スキルを使われた僕に向かって一直線に突進してくる。
「やれやれ。まさかこんなことになるとは。
でもある意味ラッキーか。下層まで行かずともSランクと戦えるんだし」
Sランクモンスターの魔石は非常に高価だという。
「お前を狩り倒して一攫千金。いっちょやりますか」
僕が突進してくるオーガキングに対して腕まくりをして銭湯準備をしていたその時だった。
「だめぇええ!!危険です!!今すぐ逃げなさい…!!!」
「…?」
背後から誰かが乱入してきた。
〜あとがき〜
現在新作を公開、連載しています。
無人島でクラス追放された件〜昔蓄えたサバイバル知識で一人でも余裕で生き延びます〜え?毒キノコが見分けられない?罠が作れない?知らねーよ自分たちでなんとかしろ〜
https://kakuyomu.jp/works/16817330650479419653
ぜひこちらの方もよろしくお願います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます