第38話 探索者センター
僕が向かったのは、探索者育成高校から最も近くにあるダンジョン、『A58』という名前のダンジョンだった。
最初のAという文字がこのダンジョンのランクを表しており、58は発見された順に振られた番号である。
現在のこの世界ではAランク以上のダンジョンは高ランクダンジョンとされており、当然出現するモンスターも強力だ。
普通探索者は初回は、低級と呼ばれるCランク以下のダンジョンを攻略するのが慣わしなのだが、まぁ僕の場合は異空間ダンジョンに潜った経験もあるので問題ないだろう。
「さて、まずは探索者センターへ向かうか」
『A58』ダンジョンへとやってきた僕は、まずダンジョンの近くに必ず存在する施設『探索者センター』へと向かった。
ダンジョンの数だけ存在するこの国営の施設は、探索者のダンジョン探索履歴や、依頼の斡旋、アドバイス、武器物資支援、ランクシステムの管理などを目的として作られている。
探索者はダンジョンに潜る前に必ずこの探索者センターを訪れ、探索者ライセンスを提示して履歴を残さなくてはならないのだ。
またダンジョンから持って帰った魔石の換金などもこの探索者センターで行うことができる。
「人はあまりいないな」
探索者センターに足を踏み入れた僕は、ぐるりと周りを見渡す。
混雑を予想していたのだが、案外『A58』ダンジョンの探索者センターは空いていた。
探索者と思しき武器を携帯した人たちが何人かいる程度で、がらんとしている。
おそらくこれはこの『A58』ダンジョンが高ランクダンジョンだからだろう。
死亡率の高い高ランクダンジョンに潜って生計を立てられるのは、一部の猛者のみという話だ。
「受付は…あっちだね」
僕は初めて入った探索者センターを見て周り、奥に受付を発見した。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でおこしでしょうか」
受付に立っていた受付嬢は、近づいてくる僕の姿を認めると、にっこりと笑みを浮かべた。
「『A58』ダンジョンにもぐりたいんですけど」
「はい…?」
僕がそういうと受付嬢がポカンとした。
あれ?
聞こえてなかったのかな?
「『A58』ダンジョンにもぐりたいんですけど」
「…」
僕が言い直すと、受付嬢が「こいつ正気か?」みたいな目で見てきた。
「あの、失礼ですけど…」
ごほんと受付嬢が咳払いを挟んで聞いてきた。
「探索者ライセンスはお持ちですか?」
「もちろんありますよ」
僕は探索者ライセンスとしても扱われている探索者育成高校の生徒証を見せた。
「あー……探索者育成高校の生徒さんですか…」
受付嬢が何かを理解したように頷いている。
「その生徒証は探索者ライセンスとしても使えるはずです。僕は『A58』ダンジョンに潜れますよね?」
「可能ではあります」
受付嬢が渋い顔をする。
「ですがお勧めはできません。A58ダンジョンは高ランクダンジョンです。学生のソロでの探索は非常に危険です」
「はぁ」
「やめておいた方がいいですよ。あなた、探索者高校の新入生ですよね?」
受付嬢は僕の生徒証を見ながらそう言ってきた。
「そうですけど」
「探索者育成高校の上級生でもソロで高ランクダンジョンにはほとんど潜りません。新入生がソロで高ランクダンジョンに潜るのはあまりにも危険です」
「いや、別にそこは大丈夫です」
「いいえ、大丈夫じゃありません」
バシンと受付嬢がカウンターを叩いた。
「今まであなたみたいな人を大勢見てきました。探索者育成高校に受かったというだけで自分は選ばれている、何者にも負けないと過信している思い上がった人たちを」
「はぁ」
「そういう人は大抵、初回から高ランクダンジョンにソロで挑んだりするという無謀を起こしてダンジョンから帰ってきません。ちょうど今のあなたみたいに」
「…」
なんだこの受付嬢。
僕を心配しているのだろうか。
きっとそうなんだろうな。
でも僕にとってはありがた迷惑でしかない。
僕としては余計な口出しをせずに職務を全うしてほしいんだが。
「過去にどんな探索者育成高校の生徒がここを訪れたのかは僕は知りません。僕は彼らと違って大丈夫ですから、A58ダンジョン探索の許可をください」
「最初は皆そういうんです。自分だけは大丈夫だ。自分は他の人間とは違う。はっきり言わせてもらいます。あなたは自らの実力を見誤っている」
「…」
温厚な僕もだんだんイライラしてきたぞ。
この人が僕の何を知っているというのだろうか。
「あのー…そこまでいうなら言わせてもらいますけど、あなたに僕のダンジョン探索を止める権限ってないですよね」
「…っ」
それをいうと受付嬢が苦々しげな表情になる。
「探索者センターの人間が、探索者に補償された自由なダンジョン探索を妨げるなんて自体が公になったらどうなると思います?」
「…すみませんでした」
自分でも出過ぎた真似だとわかっていたのだろう。
受付嬢が悔しげに謝罪の言葉を口にする。
「A58ダンジョンへの探索許可、出してもらえますよね?」
「…すぐに手続きをします」
受付嬢がそう言って未だ不満げな顔ながら手続きをしてくれた。
これで僕の探索履歴が端末に記録されたはずだ。
「ありがとうございます」
手続きを終えた僕はお礼を言って受付を後にする。
「どうなっても知りませんからね。私は止めましたから」
去り際、背後からそんな呟きが聞こえてきた。
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