第37話 初めての普通のダンジョン探索
探索者育成高校の生徒たちは、基本的に週に一度しか、敷地の外に出ることを許されない。
土曜日か又は日曜日のどちらか一日だけ、学校側に申請をして許諾を得てから自由に出入りが出来るようになる。
だが、それ以外の日に全く学校の敷地内から出れないかというとそうでもない。
例外がある。
一つは学校側が、どうしようもない事情が生徒にあると認めた時。
これは親族の死とかそういう極端な場合にのみ適応される。
そしてもう一つが、ダンジョンへの探索。
探索者を育成するための教育機関である探索者育成高校は、生徒の積極的なダンジョン探索を推奨しており、そのためなら自由に学校の敷地外に出ることができる。
そして放課後、授業を終えた僕は今まさにその特権を使って学校の外へと出ようとしていた。
「ん?どこへ行く?平日の出入りは原則禁止だ」
「ダンジョン探索に行きたいんです」
「なるほど」
一度寮に戻り、荷物を置いて身軽になった僕はその足で学校の正門へと向かった。
そのまま出て行こうとすると、守衛に停められた。
「ダンジョン探索で校外へ出る際の手順は理解しているな?帰ってくるときにダンジョン探索履歴の確認が必要になる。端末は持っているか?」
「はい、持っています」
この国では、すべての探索者はダンジョンに潜った日付や、時間のデータを政府によって管理されている。
すべての探索者はダンジョンに潜る際には専用端末を携帯することが義務付けられ、そこにダンジョン探索回数や探索時間の履歴が残るのだ。
すでに入学した次点で専門端末は全生徒に配られており、当然僕も持っている。
その端末を使って、校外にいる間、ダンジョン探索をしていたことを帰ってくる時に証明しなければならないのが、探索者育成高校の校則なのだ。
「よし、ならここに戻るときに探索履歴を確認させてもらう。ダンジョン探索をせずに遊んでいるとすぐにバレるからな」
「わかってます」
「なら言っていいぞ」
「ありがとうございます」
僕は守衛の許しを得て、探索者育成高校の敷地の外に出たのだった。
「さて、ここからだね、僕の本格的なダンジョン攻略。少しワクワクするな」
探索者育成高校の外に出た僕は、スキップするような軽い足取りで道を歩いていた。
向かう先はもちろんダンジョン。
今日が僕の初めてのダンジョン探索日になる。
「異空間ダンジョンとどう違うんだろうか?やっぱりそこまで変わらないのかな?それとも全く違うのか。まずそこからだよね」
僕は今まで自分のユニークスキル『迷宮発見』によって見つけることのできる異空間ダンジョンにしか潜ったことがない。
地上に『普通の形で存在するダンジョン』には、僕の年齢だと単独では探索許可が降りないのだ。
この国ではダンジョン探索を一人で行えるのは、探索者ライセンスというカードを所持した18歳以上に限られる。
それ未満の年齢のまだ探索者ライセンスを所持していない者がダンジョンに潜る場合、必ずライセンスを所持している者三名以上の同伴が必要になる。
そういうわけでこれまで僕は、いわゆる普通のダンジョンには潜ってこれなかった。
僕の家は中流家庭で、探索者三人を雇うお金もない。
それに僕自身が実力を隠したいのもあって、誰かとダンジョンには潜りたかったからだ。
けれど、今日からは違う。
僕はたった一人でも地上にあるダンジョンへ潜ることが可能になったのだ。
「探索者育成高校様様だね」
通常18歳以上の国が定めた実力試験を突破したものにしか配布されない探索者ライセンスだが、例外もある。
いくつかの国内の探索者育成のための教育機関の生徒には、入学時に探索者ライセンスが配布されたりするのだ。
もちろん探索者育成機関の際最高峰の探索者育成高校はその特例の対象だ。
探索者育成高校に通う生徒には、入学時に探索者ライセンスの役割を持つ生徒証が配布される。
それを使えば、たとえ18歳未満だったとしても国が管理するダンジョンへ入ることが出来るのだ。
「楽しみだなぁ……地上のダンジョンでは魔石もドロップするし…ふふふ」
思わず笑みがこぼれてしまう。
僕は本当に長い間この時を待ちわえびていたのだ。
それは単に異空間ダンジョン以外のダンジョンに興味がある、というだけでなく、魔石を地上に持ち帰ってお金を稼ぎたい、というモチベーションもあるのだ。
どういうわけか、僕のユニークスキルによってのみ発見可能な『異空間ダンジョン』では魔石がドロップしない。
通常、ダンジョンへ潜りモンスターを倒すと、モンスターの強さに比例して魔石がドロップするはずなのだが、異空間ダンジョンでは魔石のドロップは一切無い。
レベルの蓄積や、スキルなどは獲得できても、魔石をはじめとするダンジョン資源は一切手には入らないのだ。
「まぁ、逆に手に入ったら凄すぎるけどね」
もし異空間ダンジョンで魔石がドロップするのだとしたら、僕はほとんど無限の資産を手に入れたも同然だ。
だが、流石にそこまでうまい話はないということだろう。
「今日一日でどれだけ稼げるかな…」
僕は果たして初めてのダンジョン探索でいくら稼ぐことができるのか、ワクワクしながらダンジョンへと向かう足を早めるのだった。
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