第36話 校内レジャー施設



「それでは今日の授業はここまでだ。各自下校時刻までには寮に戻ること」


初日の授業が終了し、放課後になった。


「ういー…ようやく終わった…」


「長かった…」


「濃い一日だった…」


「探索者育成高校って実技だけじゃなくて座学もこんなに難しいのかよ…」


ようやく座学から解放された生徒たちが、あちこちで疲労の吐息を漏らしている。


今日行われたのは、座学だけで戦闘力を鍛える実技の授業は行われなかった。


朝から午後までの六時間、ひたすら探索者やモンスター、ダンジョンに関する知識を叩き込まれた生徒たちは、ぐったりとしている。


「やれやれ…ようやく終わりか…」


僕にとっては非常に退屈な一日だった。


なぜなら一年生の座学の範囲で僕にわからないことはほとんどないと言っていいからだ。


すでに知っていることをひたすら六時間聞き流すのは苦痛以外の何者でもない。


早く実技の授業が始まってほしい。


「この後どうする?」


「夕食まで時間あるよな?」


「そのまま寮に帰るのはつまらないし……やっぱり校内のレジャー施設みにいかね?」


「それいいな!」


担任の岡部が教室から去って5分ほどが経過。

ようやく疲労から立ち直ったらしい生徒たちが、この後の予定について話し始めた。


探索者育成高校に部活はない。


それは三年間の間、探索者として実力を上げることだけに専念するためだ。


ゆえに放課後は全生徒が、各々思ったように時間を過ごすことができる。


真面目な生徒はさっさと寮に帰って夕食までの時間を授業の復習や予習に費やすだろう。


あるいは訓練室に篭り、戦闘力を鍛える生徒もいるかもしれない。


そうでない、若干不真面目とも言えるかもしれない生徒たちといえば…


「どんな施設があるんだ?」


「カラオケとか…プールとかもあるらしいぞ?」


「マジかよ。この学校どうなってんだ?すげーな!」


…校内にあるレジャー施設で遊ぶことを考えているようだった。


全寮制のこの探索者育成高校は、非常に広い敷地を有している。


都の一等地を占有する広い敷地の中には、広い運動場やレジャー施設などが存在し、生徒たちはそこをいつでも利用することができる。


どうやら彼らは校内にどんなレジャー施設があるのか興味津々のようだ。


居ても立っても居られないというように帰り支度を始める。


「楽しそうだね。ま、僕にはやることがある」


彼らは彼らの思うように時間を過ごせばいいと思う。


僕はレジャー施設に興味はない。


この学校には遊びにきたわけじゃない。


目的があるし、そのために無駄にできる時間はない。


それに土日になれば学校の外に出ることも許されるからね。


「な、なぁ、黒崎さん…!よかったら俺たちと遊びに行かないか?」


「校内のレジャー施設、気にならない?一緒に見に行こうよ!」


「どうかな黒崎さん。俺たち新入生だし、校内にどんな施設があるのか、確認しておいた方がいいと思うんだよね」


僕が帰り支度をしていると、校内のレジャー施設に遊びに行く話をしていた男子たちが、黒崎に声をかけていた。


人気だな黒崎。


まぁ、当然か。


どう見てもこのクラスで一番容姿が整っているもんな。


次点で、早乙女って感じか。


…ん?


そう考えると僕があの二人とチームを組めたのはラッキーだったのかもな。


まぁ、彼女たちとどうなるつもりも僕にはないけど。


「レジャー施設?」


誘われた黒崎の反応はあんまり芳しくなかった。


まぁ、どう見てもそういったチャラチャラした遊びに興味がある性格じゃないからな。


黒崎も僕と同じで多分、探索者として強くなることをひたすら追い求めているタイプだ。


あんまり同級生との遊びとかには興味がないのだろう。


「ちょ、ちょっとだけでもいいから…」


「別に長くは引き留めないからさ…」


「少しだけ…本当に少しだけ…」


断られると焦った男子たちが必死に言い募る。


黒崎は一瞬頬に手をあてがって考えるようなそぶりを見せた後、いきなり様子を観察していた僕を指差してきた。


「そうね。雨宮くんが一緒ならいいわよ」


「は?」


待て待て。


なんで僕が。


ふざけるな。


僕を巻き込むなよ。


「雨宮!」


「雨宮頼む!」


「雨宮も来てくれるよな?」


ほーら、こうなったよ。


男子たちが一斉に僕の元にやってきて縋るように両手を合わせてくる。


僕はそんな彼らの頼みをバッサリと切って捨てた。


「悪いけど、僕はこの後にすることがあるから」


「「「そんなぁ…」」」


男子たちががっくりと肩を落とす。


「雨宮くんが行かないなら私も行かないわ」


「マジかぁ…」


「そっかぁ…」


「萎えるなぁ…」


黒崎が来ないとわかり一気に萎れる男子たち。


僕は何してくれてんだという意味の視線を一瞬だけ黒崎に投げてから、さっさと教室を出た。

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