第33話 決闘4


「ユニークスキル『加速』!」


有馬が再度ユニークスキルを使用した。


効果時間が切れたのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。


「ははは!!俺のユニークスキル『加速』は重ねがけができるんだ…!これで俺のスピードは元の5倍以上だ…!」


どうやらスキルの重ねがけをしたらしい。


強化系のユニークスキルの中には、訓練によっては重ねがけをできるようになるものも多い。


どうやらその技を有馬は習得していたようだ。


僕は少しだけ驚いた。


「す、スキルの重ねがけ…!?」


「マジかよ!?」


「そんなこと出来るのか!?」


「今までだって目視できないぐらい早かったのにどうなっちまうんだ!?」


僕たちの戦いを観戦していた生徒たちが興奮した声を出す。


「お前みたいな雑魚相手に俺の本気を見せてやるんだ…!感謝しろよ…!」


有馬は先ほどまでの狼狽から一転、自信を取り戻したように僕に向かってそう言い放った。


「わかったわかった。感謝するから早くかかってきてくれ」


僕は挑発するようにそういった。


「…っ!殺す!!」


わかりやすくブチギレた有馬が、僕に突進してくる。


先ほどよりも確かにその動きは速くなっている。


だが、それでも僕にとって遅いことに変わりはない。


有馬と僕の速度の差は、多少敏捷のステータスを数倍に強化したぐらいでは埋まらない。


「死ねや雨宮ぁああああああ!!!」


加速スキル重ねがけによって得られた速さで僕の目の前に迫ってきた有馬は、拳による連打の攻撃を繰り出してくる。


遅い。


遅すぎる。


僕は欠伸の出そうなその拳を全て最小限の動きで交わした。


「な、なんかすげぇえ…!」


「二人の体がブレて見えるぞ…!」


「な、何が起こってるんだ!?」


「異次元すぎるだろ…!」


観戦している生徒たちはそんなことを言っているが、僕にとっては退屈な非常にレベルの低い戦いだ。


そろそろ終わらせてもいいだろうか。


有馬はしっかりと僕との実力差を思い知っただろうか。


「うおおおおおお!!!」


「やれやれ」


懲りずに連打を繰り出してくる有馬。


いい加減避ける一方も飽きてきた僕は、その拳を簡単に受け止めた。


「遅いよ」


「何ぃ!?」


両方の拳を受け止められ、有馬が目を剥いた。


僕は有馬の手を解放してあげながらいった。


「これでわかったろ?君のスピードでは僕を捉えることは出来ないよ」


「う、嘘だぁあああ!!」


「は?」


「こ、この俺が……!Aランクスキルのこの俺が…!有馬商会の御曹司のこの俺が…!Gランクスキル如きに負けるわけないんだぁああああああ!!!うおおおおおお!!!」


「君馬鹿だろ」


まるで子供が駄々をこねるようにそんなことを捲し立てた有馬は、今度は訓練室内を縦横無尽に駆け巡り、四方八方から攻撃を繰り出してくる。


「うおおおおおおお!!!」


「はぁ…諦めが悪いやつだね」


ため息を吐いた僕は、地面を蹴った。


そしてどうやらすでに敗北している現実を認めたくないらしい有馬にわかりやすく実力差を理解させるために……


「おーい、どこに行くのー?」


「何ぃいいいいいい!?」


訓練室内を走り回る有馬を、その速度を上回る速さで追いかけた。


「ぐぉおおおおお!?どうしてGランクスキル如きが俺の速さについてこれるんだぁああああああ!?!?」


「ほら、遅いよ。もっと早く走らないと」


「…っ!?」


僕は有馬の背後に回ったり、先回りしたりして、徹底的に速さの差を解らせる。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


やがて有馬は体力が尽きたのか、肩で息をして走るのをやめた。


「もう追いかけっこは終わりかな?いい加減僕の勝ちってことでいい?」


「…っ!?」


有馬は気づかないうちに背後に回り込んでいた僕に驚き、尻餅をつく。


「もうわかったでしょ?君はご自慢の速度ですら僕に敵わない。勝敗は明らかだと思うけど、まだやる?」


「す、すげぇ…」


「なんだ今の…」


「何も見えなかったぞ!?」


「二人とも、残像みたいになってた…」


「何が起こってたんだ!?」


「わからん…だが、どうやら雨宮が有馬の速度を上回ったらしい…」


「マジかよ!?あいつ本当にGランクか!?」


勝負の結果に生徒たちがざわつく中、有馬が僕を睨みつけるようにしていった。


「まだだ…!まだ勝負は決まってない…!勝負はどちらかが戦闘不能になるまでだ…!俺はまだこうして立っているぞ…!」


「はぁ…やれやれ…」


諦めが悪いにも程がある。


有馬自身、流石にもう僕に勝てないことは理解しているだろうに。


けれど有名な商会の御曹司としてのプライドから敗北を受け入れられないのだろう。


「困ったな」


有馬の意識を奪い戦闘不能にすることは簡単だ。


でもそれだと後々有馬商会との問題に発展する可能性が出てくる。


僕は面倒はごめんだ。


何か、直接手を下さずに有馬の戦意を奪う必要があるな。


「あまり人には使いたくないんだけど……まぁいいか」


僕は有馬を見据えて、あるスキルを発動した。


「スキル『威圧』」


「…っ!?」


それは入学試験の時にも使った、自らよりも弱いものに力の差を理解させ怯ませるスキル。


有馬のステータスは僕よりも断然低い。


ゆえにこのスキルは有効であるはずだ。


「あっ…あぁ…あっ…」


有馬が呆然としてパタリと座り込んでしまった。


そのままガクガクと震え、まるで許しを乞うように僕の眼のまえで首を垂れる。


そして…


「あちゃー…」


「…」


じわぁと、有馬のズボンに水のシミのようなものが広がり出した。


どうやら威圧スキルが効きすぎて漏らしてしまったようだ。


「ごめんごめん。ここまでするつもりはなかったんだ」


僕は慌てて威圧スキルを解除する。


だが、手遅れだった。


有馬は完全に戦意と自信を喪失し、呆然とした表情で絶え間なく放尿していた。


「嘘だろ…」


「あの有馬商会の御曹司が…」


「わからされてお漏らししてるぞ…」


野次馬の生徒たちのそんな呆然としたつぶやきが、空気に溶けて消えていった。



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