第32話 決闘3


勝負が始まって早々、有馬が自分のユニークスキルを発動した。


どうやら速攻で勝負を終わらせるつもりらしい。


僕の挑発がそんなにイラついたのか。


まぁ、この手の輩は煽り耐性が極端に低いのが相場だからね。


さっさとこの馬鹿げた決闘を終わらせたい僕としては望ましい展開だ。


「見せてやるよ、俺のAランクスキルの力をな…!」


スキルを使用した有馬が僕に向かってドヤ顔でそんなことを言ってくる。


僕は動かない。


すでに鑑定で有馬の実力も、スキルの力も把握しているため、僕から仕掛ければ勝負が一瞬で終わることも目に見えている。


でもそれではダメなのだ。


有馬に実力差をはっきりとわからせるために、まずは向こうから攻撃させる。


実力の差を理解する間も与えずに一瞬で終わらせてしまったら、今後も絡まれて面倒だからな。


「お前に捕らえられるかな?俺の動きが…!」


僕が棒立ちで有馬が攻撃してくるのを待っていると、ぺちゃくちゃ好き勝手に喋った有馬が、ようやく動いてくれた。


地面を蹴って真正面から僕に突っ込んでくる。


そのまま近接戦に持ち込むつもりかな、と思ったら有馬は直前で足を止めた。


そして僕の目の前でドヤ顔をする。


「ククク…どうだ?これが俺のスキル『加速』だ!」


「…?」


「速すぎて見えなかったろ?」


いやむしろスローモーションに映ったんだけどね。


僕はそう言おうとしたがグッと堪えた。


言えば有馬が激昂して理性を失うことは目に見えていたからだ。


有馬のユニークスキルは『加速』。


ランクはAでその力は、自らの動きを何倍にも加速するというもの。


確かに強力なスキルだ。


Aランクだけはある。


でも、僕にとっては多少有馬の速度が速くなろうがそんなの誤差でしかない。


有馬と僕のステータスにはあまりに差がありすぎる。


圧倒的なステータスの差が両者の間に存在すると、スキルの力なんて関係ないのだ。


スキルで強化された有馬のスピードは、やはり僕にとってはスローモーションで動いているようにしか感じなかった。


もっとも、周りで見ていた生徒たちにとっては違ったようだけど。


「す、すげぇ…!」


「なんだ今の動き…!」 


「一瞬で雨宮の目の前に移動したぞ…!?」


「速すぎる…!動きが全く目視できなかったぞ!」


強化ガラスの外で勝負を観戦していた生徒たちがそんな興奮した声を上げる。


有馬は相変わらずドヤ顔で僕の目の前に立っている。


「どうだ?これが俺のスキルの威力だ。お前には俺の動きを目視することすら叶わなかったろ?」


「いや、見えたけど?」


僕が正直にそういうと、有馬は小馬鹿にしたように「はっ」と息を吐いた。


「強がらなくていいんだぞ?お前が反応出来てなかったのはバレバレだ」


「いや、別に強がってないけど」


「じゃあ、これに反応してみろよ」


有馬が動いた。


加速スキルで強化されたスピードで、僕の背後に回り込む。


それからあくびのでるようなスピードで僕の首筋に手刀をお見舞いしようとする。


前方の鏡に映った有馬の表情は勝利を確信したものだった。


僕が見えてないとでも思っているんだろう。


「うしろだぞ。間抜け」


「知ってるよ」


僕は背後を振り向くまでもなく、有馬の手刀をキャッチする。


「なっ!?」


手をつかまれた有馬が驚いて飛び退いた。


「お、お前…!?今どうやって…!?」


「だからさっきから言ってるでしょ。君の動きは完全に見えているよ」


「嘘だ…!まぐれに決まっている…!」


有馬が現実を受け入れられないというようにそう怒鳴った。


「お、おい…!今のみたか…!?」


「何が起こったんだ!?」


「あいつ有馬の攻撃を受け止めたのか…!?」


「わからん…一瞬で有馬が雨宮の背後に移動したと思ったら、雨宮が有馬の攻撃を受け止めていた…」


「どんなレベルの高い攻防なんだよ…!?」


「あいつ、本当にGランクスキルかよ…」


「いや、まだわからん。ただのまぐれって可能性も…」


僕が有馬の攻撃を受け止めたことで、一方的な戦いになると予想していたはずの生徒たちが騒ついていた。


戸惑ったように僕と有馬を交互に見ている。


「…っ…運のいいやつだ…!まぐれで俺の攻撃を受け止められるとは…!」


「だからまぐれじゃないって」


「…うるせぇ!Gランクのお前に俺の攻撃が受け止められるわけないだろ…!まぐれに決まってる…!だが、次はこうはいかないからな!!」


「はぁ、やれやれ」


有馬はまだ実力の差を理解できておらず、戦いを続ける気満々のようだった。


僕は徹底的に有馬に、実力の差をわからせてやることにした。

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