第29話 いいがかり


「く、黒崎さんと雨宮くんは…も、元々知り合いだったの?」


沈黙を破ったのは早乙女のそんな言葉だった。


「私と雨宮くん?」


黒崎が早乙女をチラリと見る。


やはりその視線にはなぜか敵意のようなものが込められていた。


この二人、やっぱり過去に何かあったんだろうか。


「どうしてあなたがそんなこと気にするの?」


「は、話したくないなら別にいいです!」


なぜかちょっと喧嘩腰の黒崎。


早乙女が慌てたようにブンブンと手を振った。


「別に話すような出会いなんて何もないよ、僕たちの間に」


僕は黒崎に対してすっかり萎縮している早乙女にそう言った。


「…ちょっとどういうことかしら?そのいいかた」


「事実だろ?」


黒崎にジロリと睨まれる。


けれど僕が言ったことは事実だ。


僕たちの間にこれといった出会いはなかった。


理由はわからないけど、度々黒崎の方から僕に色々と絡んできたり庇ってきたり、ライバル視してきたりするだけだ。


僕としては別に迷惑ではないが、そのことを有難いとも思っていない。


正直いって僕は黒崎がなぜここまで僕に執着するのかがわからなかった。


「まぁ、あなたにとってはそうかもしれないわね」


黒崎がツンと顔を背けて食事に戻った。


僕は早乙女に尋ねる。


「過去に彼女と何かあったのかい?」


「え!?私…?」


「なんか仲が悪いというか、早乙女が黒崎に目をつけられているような気がするんだけど」


「な、何もないよ!?もちろん黒崎さんの名前は知ってたけど……実際にあったのは今日が初めてで…」


「そうなの?」


ではなぜ黒崎は早乙女に対してこうまで敵対的なのだろう。


それともあれか。


彼女の他人に対する態度は基本的にこんな感じなのだろうか。


そんなことを考えていた矢先のこと。


「おいおい、みんな見てみろ!!レベリングでこの高校に入学した卑怯者が堂々と食事をしているぞ!!」


「…?」


突然背後からそんな声が聞こえてきた。


振り返ると、髪を金色に染めたチャラそうな男がそこに立っていた。


何やら僕に対して指を刺して見下したような表情を浮かべている。


「誰君?」


「はっ。まさかこの俺を知らないとはな!」


「…?同じクラス?」


僕は早乙女に尋ねた。


早乙女がガクガクとうなずいた。


「あ、有馬勝太くん…あの有馬商会の…」


「はっ。そこの女は俺を知っているようだな!まぁ当然だ!!この学校の生徒で俺の名前を知らない者はほとんどいない!!お前みたいな無知を除いてな!!」


僕の鼻先に指を突きつけてくる金髪。


どうやら名前は有馬勝太というらしい。


いきなり絡んできて一体なんのようだろうか。


「まだ俺の凄さをわかっていないようだな…!なら特別に教えてやろう!!俺こと有馬勝太はな…!あの有名な有馬商会の代表取締役の息子なのだ…!どうだすごいだろう!?」


「有馬商会…ひょっとして魔石を取り扱う大手の?」


「そうだ。その有馬商会だ。ようやく俺が誰だか理解したようだな」


有馬商会の名前は僕も知っている。


ダンジョンからもたらされる貴重な資源『魔石』を取り扱っている大手企業だ。


時価総額は日本でも5本の指に入るほどで、政界にも大きな影響力を持つという。


どうやらその有馬商会の御曹司が、今僕の目の前にいる男らしい。


「それはすごいね」


僕はそんな感想を述べて食事に戻ろうとする。


「おい、ちょっと待て!!まだ俺の話は終わってない!!何勝手に話を終わらせようとしている?」


ガシッと肩を掴まれた。


「何かようがあるの?」


「お前、無礼だぞ?俺にそんな態度をとっていいのか?」


「…?特に無礼な態度をとった覚えはないけど?」


「俺がその気になれば父に頼み、お前をこの高校から追い出すことだってできるんだぞ!?」


「ふぅん。そうなんだ」


面倒臭いなぁ。


内心そう思いながら、僕は適当に相槌を打つ。


「お、お前ぇ…いい加減にしろよ…!レベリングでこの学校に入った雑魚の分際でぇ…!」


有馬がこめかみをひくつかせる。


「レベリング?」


僕が聞き返すと、有馬は周りの新入生たちに語りかけるように僕を指差しながらいった。


「そうだ…!Gランクのお前が自力でこの日本最高の難関、探索者育成高校の受験を突破できるはずない…!お前、誰か強い探索者と一緒にダンジョンに潜ってレベリングしてもらったんだろう!!もしくは試験で不正を働いたな!?なぁ!みんなもそう思うだろ!?」


「なんの証拠があってそんなことを言うんだ?僕は不正はしていないしレベリングもしてもらったことはない。僕は自力でこの高校の受験を突破したよ」


「嘘つくな!!お前がなんらかの不正を働いたことは俺だけじゃない皆が知ってい

る!!」


有馬がそういうと、周囲で話を聞いていた新入生たちが頷いた。


「そうだそうだ!!」


「レベリング野郎!」


「卑怯者!!」


そんな野次がいくつか飛んでくる。


「はぁ…やれやれ…」


またこれか。


僕はうんざりしながらどうしたものかと頭をかく。


「有馬くん。これは一体どう言うことかしら?」


それまで黙々と食事をとっていた黒崎が突然すくっと立ち上がり、有馬と対峙した。


「食事中に突然怒鳴り出して、他人に難癖をつけて…何がしたいの?鬱憤ばらし?」


「おい黒崎…!俺はお前にも言いたいことがあるぞ…!!俺の婚約者のくせになぜこんな男と食事を共にしているんだ…!!有馬商会を敵に回したいのか!?」


「…っ」


そう言われた黒崎が、少し悔しげに表情を歪める。


黒崎の初めて見せる表情に僕は少し驚いた。


…というか今なんて?


婚約者?


僕は有馬と黒崎を見比べた。

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