第30話 決闘
「勘違いしないで」
有馬と黒崎を見比べていると、黒崎が僕の方を向いてピシャリと言った。
「私の意思じゃないわ。親たちが勝手に決めたことよ。そして私はこんな男と一緒になるつもりなんてないわ」
黒崎が有馬を睨みつけながら言った。
なるほど。
どうやら二人の実家の絡んだ複雑な事情がありそうだ。
僕はこの問題には踏み込まないでおこうと決めた。
「はっ。まだそんなことを言っているのか、黒崎。お前は俺の女だ。いい加減そのことを受け入れたらどうなんだ?」
ニヤニヤしながらそういった有馬が、ジロジロと黒崎の体を眺め回す。
「…っ」
黒崎がそのいやらしい視線から身を守るように自分の体を両手で庇った。
…なんというかこの二人の関係性が大体分かった気がする。
「はっ。まぁ、今はそのことはいい。それよりも俺が許せないのは……お前だよお前!」
「僕?」
ビシッと有馬が僕を指差した。
「有馬商会の御曹司として命じる…!雨宮裕太!お前は即刻この探索者育成高校を自主退学しろ…!」
「…?どうしてそんなことしなくちゃいけない?」
なぜいきなりそんなことを言われるのか僕には理解ができなかった。
だが有馬はそうするのが当然と言わんばかりに、高圧的な態度で捲し立てる。
「当たり前だろう…!お前のような雑魚はこの学校には見合わない…!ここに通っていいのは俺のように選ばれた実力者だけだ…!決してGランクスキル持ちのような役立たずのゴミではない!!」
「僕のスキルランクは確かに低いかもしれないけど、僕はちゃんとこの学校の試験を突破している。君の言葉に従わなければならない理由もない。悪いけどこの学校をやめることはないよ」
「だったら父に頼んで力づくでやめさせてやる…!」
「はぁ…面倒臭いな。一体何が目的なのかな?なぜ僕を執拗に追い出したい?」
僕は面倒だと思いながらも、有馬に対応する。
もし有馬が本当にあの有馬商会の御曹司だと言うのなら、無闇に敵に回すと逆に面倒だからだ。
何か誤解があるのなら、それを解いたほうがいい。
僕はそう考えた。
「俺は視界に映るゴミを掃除しておきたいだけだ。毎日クラスで役立たずの顔を拝みたくはないからな」
「なるほど…つまり君は僕が役立たずだからこの学校から追い出したいってこと?」
「そういうことだ」
有馬が僕を見下ろしながら言った。
「はぁ…わかったよ」
僕は億劫だなと思いながらも、立ち上がって有馬に向かい合った。
「じゃあ、僕が役立たずでないと証明したらこの学校にいてもいいかい?」
どうしてこんなやつに真面目に対応しなくてはならないのか。
心底そう思うが、権力者の息子だと言うのだから仕方がない。
特に有馬商会は『魔石』を取り扱っている企業で探索者界隈やダンジョン管理会社にも多大な影響力を持っている。
もし不用意に敵に回したら、僕の今後の探索者人生に多大な影響が及ぶかもしれない。
だからここは、本当に面倒ではあるけれど、こいつが満足いくまで付き合ってやろう。
「どう言うことだ?」
「そのままの意味だよ。僕が君に僕自身の探索者としての実力を証明する。そうすれば君も満足するだろう?」
「はっ。お前の探索者としての実力?一体どうやって証明するんだ?」
「それはそっちで考えてくれていいよ。僕の方から出した条件を達成しても、また不正を疑われそうだからね」
流石の有馬も自分自身で出した条件を僕がクリアすれば、僕の実力を認めざるを得ないだろう。
僕はそう考えて、主導権を有馬に委ねた。
もしここで仮に有馬が、日本にある最難関ダンジョンを一人で攻略しろ、なんて言い出しても僕はかまわないと思っていた。
だが、有馬が出してきた条件とは拍子抜けするほどに簡単でわかりやすいものだった。
「いいだろう」
有馬はニヤニヤしながら僕を見た。
「お前の実力とやらを証明してもらおう、雨宮裕太。もしそればできればお前がこの学校に在籍することを許可してやろう」
なんでお前の許可が必要なんだ?
そう思ったけどグッと堪える。
「ありがとう。それで条件は?」
「くくく…条件はだな…」
有馬が不敵な笑みを浮かべていった。
「この俺と決闘し、勝つことだ」
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