第28話 寮での食事


「ふぅ…いい運動になったかな」


寮の自室で見つけた異空間ダンジョンをクリアして部屋へと戻ってきた僕は、額の汗を拭った。


今回見つけた異空間ダンジョンはSランクだったため、攻略に数時間かかってしまった。


「ちょうどいい時間帯だね」


時計に目を移すと、ちょうど寮で夕食が出る時間帯である。


僕は軽くシャワーで体を流して制服から私服に着替え、それから部屋を出て寮の食堂へと向かった。


「なんだこれ!?めちゃくちゃ美味しいぞ!?」


「メニュー豪華すぎないか!?」


「これが全部無料…!?この学校に入ってマジでよかったぜ…!」


食堂ではすでにたくさんの生徒たちが食事を始めており、豪華なメニューに舌鼓を打っている。


どうやら夕食はバイキング形式となっているようだ。


中央のテーブルにはさまざまなメニューが陳列されている。


「美味しそうだね」


異空間ダンジョンを攻略して腹が減った。


僕は早速取り皿に好きなメニューを盛り付けようとする。


「あ、雨宮くん!来たんだね!」


「ん?早乙女か。やあ。君も夕食に?」


「うん!」


声をかけてきたのは早乙女だった。


取り皿を持って僕の隣に並ぶ。


「せっかくだから一緒に食べない?」


「もちろんいいよ」


僕は特に断る理由もなかったため、同意した。


僕たちは野菜や肉など、バランスよく取り皿に盛り付けていき、空席に二人並んで座った。


「今朝は本当にありがとう、雨宮くん。改めてお礼を言わせてね?」


僕が料理を口に運んでいると、早乙女がそんなことを言ってきた。


「別にあれくらいなんでもないよ」


「な、何かお礼をしたほうがいいかな?」


「別に必要ない」


見返りが欲しくて助けたわけでもないしね。


「そっか……その、何か私に出来ることがあればなんでも言ってね?」


「わかった」


「そ、それにしても……まさか本当に同じクラスになるなんてね?私びっくりしたな」


「そうだね。僕も少し驚いたよ」 


「そ、その……あれって本当なの?」


「あれ?」


早乙女が少しいいずらそうに聞いてきた。


「雨宮くんのスキルがGランクだって…私、信じられなくて。だって雨宮くんってあんなに強かったから…」


「本当だよ」


僕は料理を口に運びながら言った。


「僕のスキルはGランク。最低のFのそのさらに下だね」


「そ、そうなんだ…」


「驚いた?確かに自分でも低すぎるランクだと思うよ」


「べ、別に馬鹿にしてるとかそういうことじゃないからね!?」


早乙女が慌てたようにそういった。


「わかってる」


早乙女に馬鹿にするような意図がないことはわかっていたので、僕は安心させるように微笑んだ。


早乙女がほっと胸を撫で下ろす。


「すごいなぁ…雨宮くんは。スキルなんて関係なしに、あそこまで強いんだもん……私なんてAランクスキルなのに、戦闘は全然で…」


「まぁ、早乙女のスキルは実際強いと思うからこれから生きてくるんじゃないかな?何も一人で戦うことだけが探索者じゃないからね」


「そ、そう言ってくれると嬉しいかも…」


早乙女とそんな会話をしながら食事をしていると…


「雨宮くん?何をしているの?」


「…?」


「…っ!?黒崎さん!?」


背後から少し刺々しい声が聞こえてきた。


振り返るとそこに立っていたのは黒崎だ。


なぜか睨むような視線で俺と隣の早乙女を交互に見ている。


「やあ、黒崎。どうかしたの?」


「この人は誰かしら?私に紹介してもらえる?」


にっこりとした笑みで黒崎が早乙女を顎でしゃくった。


なんだろう。


黒崎は確かに笑顔を浮かべているはずなのに、何か圧のようなものを感じる。


「紹介?よくわからないけど、こっちは早乙女だよ。早乙女恵里。僕たちと同じクラスだよ」


「さ、さ、早乙女恵里です…!よろしくお願いしますっ…黒崎さんっ…!」


早乙女がめちゃくちゃ緊張した声で黒崎にペコペコ頭を下げている。


「そう。同じクラスの…」


黒崎はなぜか早乙女を見定めるような、ともすれば不躾な視線でジロジロと眺めている。


「それで…二人はどうして一緒に夕食を食べているの?知り合い?それともこ、恋人だったりするのかしら…?」


なぜか「恋人」の部分でちょっと詰まる黒崎。


「こ、恋人!?」


早乙女が恋人という言葉に反応して顔を真っ赤にしている。


僕は盛大に勘違いしている黒崎を正す。


「恋人じゃないよ。知り合いというほど仲が深くもない。今朝ちょっとした事件があってね」


僕は今朝、入学式の前に起こったことを黒崎に聞かせた。


「そう、そうだったの」


全てを聞き終えた黒崎は、なぜか少し安心したような表情を浮かべる。


「恋人でないのなら…隣、かまわないかしら」


「別にいいよ」


黒崎が僕の隣を指差して聞いてきた。


「早乙女はいいかい?」


「う、うん…!もちろんだよ!」


「みたいだよ」


「ありがとう。早乙女さん」


「…っ」


にっこりとした笑みを早乙女に向ける黒崎。


だが、その表情には何か敵意のようなものが見え隠れしていた。


早乙女がキュッと身を縮こまらせる。


仲が悪いんだろうか、この二人は。


…まぁ僕には関係ないな。


「…」 


「「…」」


僕は気にせず食事を続ける。


なぜか早乙女と黒崎は一言も会話せず、なんとも言えない気まずい空気が僕たちの間に漂うのだった。

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