第27話 雨宮裕太という男3
「お前ふざけんなよ!」
「何がGランクスキルだよ!」
「騙しやがって…!」
試験用モンスターであるオーガを倒し、バトルルームから出てきたその男を、受験生たちは罵倒で出迎えた。
彼らは口々に「騙された」「嘘つき」とその男を野次った。
男は呆れた様子で受験生たちを見ていた。
それはそうだ。
先ほどまで自分を卑下し、見下していた連中が途端に手のひら返しをしてこの有様。
みっともないにも程がある。
黒崎はたまらず声をあげていた。
「いい加減にしなさい。みっともないわよ」
全員が黒崎の方を見た。
あたりがしんと静まり返り、受験生たちはこちらを見てヒソヒソと噂をしている。
「黒崎美久だ」「あれみろ…Sランクの黒崎美久だ…」
小さな声で自分の名前が聞こえてる。
黒崎はすでに自分の名が、周囲の人間だけでなく地域全体に広まっていることを知っていた。
Sランクユニークスキル持ち、黒崎美久。
おそらくここに訪れた受験生のほとんどが自分の名前を知っていることだろう。
だからそんな自分の言葉なら、愚かな彼らにも少しは影響を与えられる。
そう思い、黒崎はそのGランクの受験生を庇い、彼を馬鹿にした他の受験生たちを非難した。
誰も何も言い返してこなかった。
その勇気がないのか、はたまた自分の行いを恥じているのか。
まぁ、どちらでもいい。
とにかく黒崎はあの状況で黙っていることなど出来なかった。
多少恩着せがましくも、その男を庇えたことに満足感を覚えていた。
「出過ぎた真似だったかしら?」
言いたいことを言い終えた黒崎は、その場に集まっていた受験生を散らせた後、その男に話しかけた。
男は少し驚いたような感じだった。
「いや別に」
「そう。もし迷惑だったらそう言ってくれて構わないわ。でも努力を否定する行為が私は許せなくて。私にはわかるの。あなたが努力によってここまできたことが」
「はぁ」
黒崎は知っていた。
どんなに強いスキルを授かろうと、それだけでAランクのオーガを圧倒することなど不可能だと。
ましてやこの男はGランク。
きっと現在に至るまでに血の滲むような努力を重ねてきたことだろう。
その努力を他の受験生たちが否定していたことが黒崎には許せなかったのだ。
「あなたの戦い、見させてもらったわ。とても素晴らしかった」
「…ああ、うん」
黒崎は先ほど見た圧倒劇の感想を素直に述べ、男を称賛する。
「あなたはきっと合格するでしょうね。そして私も当然合格する。授業が始まったらまた会いましょう。もしかしたら同じクラスになるかも」
「…はぁ」
欲を言うともう少し話したかったが、しかしそれは相手に迷惑だろう。
それに焦る必要はない。
この男は間違いなく探索者育成高校に合格するだろう。
そして私が落ちることも当然ないのだから、話は入学した後でいくらでもできる。
黒崎はそう考えた。
「それじゃあね」
黒崎は手を振って踵を返し、その場をさった。
そしてもう帰ろうとはせずに受験会場に残って自分の受験番号が呼ばれるのをまった。
彼女にはもう、帰る気は少しもなかった。
むしろ黒崎は生まれて初めてと言っていいくらいの高揚を覚えていた。
あの男。
今まで他人に感じたことないぐらいのポテンシャルを感じる。
あの男こそ、自分のライバルにふさわしい。
あの男が探索者育成高校に入学すると言うのなら、それだけで入る価値がある。
「ふふふ…楽しみになってきたわね…」
黒崎は通過点でしかない今日の試験のことを忘れて、すでに入学した後のことに思いを馳せていた。
その日黒崎は、開始数分で試験用モンスターのオーガを倒し、実技試験を終えた。
そしてその数週間後、彼女の元に合格通知が届いたのだった。
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