第26話 雨宮裕太という男2
「おい、次あいつの番らしいぜ…」
「ぎゃははっ。あいつ死んだな…」
黒崎はGランクスキルだとバカにされていた受験生を遠い場所から観察する。
やがてその受験生は、自分の番がきたのか控室の方へと向かっていった。
「何秒もつかな?」
「さあな。最初の一撃で大方死ぬだろ」
他の受験生たちはすでにあの男が、オーガとの戦いで死ぬものと決めつけていた。
控室に向かうその男を、ニヤニヤとバカにするような笑みを浮かべながら見送る。
「どうなるかしらね」
黒崎はその男がそう簡単に死ぬとは思えなかった。
こういう時の自分の勘はよく当たる。
黒崎は、Gランクだとバカにされていたその受験生が、もしかしたら試験用モンスターのオーガを倒してしまうかもしれないとさえ思った。
「お、来たぜ…!あいつの番だ…!」
「バトルルームに入ったぞ…!Gランクスキルがオーガとご対面だ!!」
やがて巨大な画面に先ほどの受験生の姿が映し出された。
全く恐怖を感じさせない表情で、バトルルームに入ってきた。
「ん?あいつ武器は使わないのか?」
「馬鹿か!?死ぬぞ…?」
驚いたことにその男は武器を使うことを拒否した。
バトルルームには、受験生用に一級品の武器が並べられていたが、男は武器には見向きもしなかった。
「武器は使いません。早く始めましょう」
「お、オーガを解き放てぇえええ!!」
試験官のそんな声が響き渡り、やがてバトルルームに入ってきた鎖に繋がれたオーガが拘束から解かれた。
「あーあ、終わったな」
「これは助からねぇ」
その場にいたほとんどすべての受験生が、その男の死を確信したその時だった。
『オガ…!?』
信じられないことが起こった。
男に向けて突進していた男が急に動きを止めて、まるで男を恐るかのように二、三歩後ずさったのだ。
「え…?」
「は…?」
「一体何が…?」
それを見ていた受験生たちが困惑する中、黒崎だけは何が起こったのか正確に理解していた。
「あれは…おそらく『威圧』スキルね…」
威圧スキル。
それは相手を威圧して動きを弱らせるスキルだ。
通常、自分よりもレベルが低い雑魚に対して使うスキルだ。
自分よりもレベルが上の存在には『威圧』スキルは効きづらい。
しかし画面に写っているオーガは、男を恐れ、逃げようとしているように見える。
それが意味するところとはつまり…
「オーガよりレベルが上…」
黒崎は自分の勘があたったと思った。
やはりあの男は実力者だったのだ。
「おいおい!?なんだよこれ!?」
「オーガは何やってんだ!?」
「そんな雑魚さっさと殺しちまえよ!!」
受験生たちは、動きを止めたオーガに不満の声をあげる。
何が起こっているのか、全く理解できていないのだろう。
「さて…これからどうするの?あなたは」
黒崎は馬鹿な受験生たちを放っておいて、戦いの映像に集中する。
『威圧』スキルによって少しずつ後退するオーガに、男は無造作に距離を詰めていった。
そして…
「…!?どういうこと!?」
次に起こった事態を目にした黒崎は思わずそんな驚きの声を上げていた。
手を触れてもいないのに、オーガが男の目の前で膝をつかされたからだ。
『オガァアアアアアアアアア!?!?』
壁越しに、オーガの苦痛の鳴き声が聞こえてくる。
オーガは、まるで自重が何倍にもなったかのように地面に膝をついて這いつくばったまま動かない。
「な、なんだあれ…?」
「弱ってるのか…?」
「あのオーガ、大丈夫かよ…?」
「おいおい。こんなの試験になるのか…?」
他の受験生たちはオーガになんらかの異常があると解釈したらしい。
だが、それは違う。
バトルルームに入ってきた時点でオーガはピンピンしていてダメージは一切なかった。
今オーガがあの男の前に膝をついているのは、おそらくなんらかのスキルによる力のせいだ。
「一体どんなスキルだというの…?」
未知のスキルの存在に、黒崎はワクワクする自分を感じた。
『オグゥ…オガァア…』
オーガは地面に縛り付けられたように動かない。
男は焦ることもなくオーガとの距離を詰めて、その頭部の前でまるで斧を構える処刑人のように右手を上げた。
そして…
斬ッ!!!!!
「あ…」
鋭い切断音。
切り落とされたオーガの首がボトっと地面に落ちた。
「「「「「はぁああああ!?!?」」」」」
受験生たちの驚きの声が会場に響く。
男は、死んだオーガを感情のない瞳で見下ろした後、試験官といくらか言葉を交わし、その後悠々とバトルルームを後にしたのだった。
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