第25話 雨宮裕太という男


黒崎美久にとって、雨宮裕太は初めて出会うタイプの男だった。


黒崎が雨宮裕太を初めて認識したのは、探索者育成高校の実技試験の会場で、だった。


「つまらないわね…」


黒崎は自分の受験番号が呼ばれるのを待ちながら、他の受験生と試験用モンスターであるオーガの戦いをモニターで眺めていた。


黒崎は退屈していた。


どの受験生も、戦い方は非常に凡庸で目を見張るような実力者がいないからだ。


「はぁ…日本最高峰の探索者育成機関だというから期待していたけど……大したことないわね」


Sランクのユニークスキルを10歳の時に授かり、その後欠かさず努力を続けてきた黒崎美久の探索者としての力は同年代ではずば抜けていた。


すでに成人している探索者同伴で実際にダンジョンに潜ったこともあるが、その際はたった一人でAランクのダンジョンを攻略してもらい、同伴していた探索者を驚かせたこともある。


黒崎は強さを求めていた。


最強の探索者になることが、Sランクユニークスキルを授かった自分の使命だと思っていた。


だから探索者育成高校を受験した。


探索者育成高校になら、自分のライバルになれるような者がいるかも知れないからだ。


…そう期待したのに。


「これは完全に期待はずれね…はぁ。今からでも入学をやめようかしら」


早朝から受験会場を訪れ、ずっと受験生と試験用モンスターとの戦いを見ていたが、今のところ自分に及ぶような実力を持った生徒は現れていなかった。


黒崎が期待したような、自分に刺激を与えてくれそうな実力者は一人として見当たらなかった。


「もう帰ろうかしら」


自分に匹敵するような実力者が一人もいないのだったら、探索者育成高校に入学する意味もない。


そう思い、黒崎が受験会場から去りかけたその時だった。


「おい、聞いてくれ!!こいつGランクスキルらしいぞ!?信じられるか!?」


受験会場のど真ん中からそんな声が聞こえてきた。


「何かしら?」


何やら実技試験を待っている受験生たちの間で、騒ぎが起こっていた。


たくさんの受験生たちが一人の受験生を囲み、Gランクだ、などと囃し立てている。


「信じられねぇ!こいつGランクらしいぞ!?」


「Gランクってなんだよ笑笑Fよりしたってことか!?」


「そんなランク本当に存在するのかよ!?ぶひゃひゃ!!」


受験生たちは下品な笑い声で自分よりランクの低いその受験生を馬鹿にしていた。


どうも彼らの話に耳を傾けていると、その受験生のユニークスキルはGランクということだった。


「Gランクなんて存在したのね」


最低ランクはFだと思っていた。 


だが、その下が存在したらしい。


「はぁ…くだらないわ。ユニークスキルのランクで他人を馬鹿にするなんて」


黒崎はそのGランクの男をバカにする受験生たちを軽蔑の眼差しで見た。


黒崎にとって、スキルランクなどただのスタート地点に過ぎなかった。


重要なのは、いかに努力し、工夫したか。


黒崎は今まで何事に対しても手を抜いたことはなかったし、そのおかげで今の自分の地位があると思っていた。


だから彼らのように他人をランクで決めつけてバカにする連中の思考は理解ができなかった。


「Gランクのスキルでもこの高校を受験することに決めたとしたら、彼は相当努力したのでしょうね」


黒崎はチラリとそのGランクとバカにされている生徒の表情を見た。


その生徒の表情には、一切の恐怖も迷いもなかった。


むしろ自分の合格を絶対に信じて疑わないような自信さえ感じた。


「彼、面白そうね……彼の受験まで見てから帰ろうかしら」


一旦は会場を去ろうとしていた黒崎だったが、もう少しそこに留まることにした。

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