第24話 ここにも異空間ダンジョン
「ひとまず一段落ってところかな」
それから半時間後。
荷解きをほとんど終えた僕は、ベッドに腰を下ろして一息ついた。
必要最低限の家具は、すでに部屋に揃っていた。
だから僕が持ち込んだのは、書籍とか筆記具とか、そんな小物ばかりだった。
ゆえに寮に入ってから荷解きは三十分とかからず終えられた。
「さて…」
僕は壁の日程表に目をやる。
寮で食事が提供されるのは朝と夕と二回。
夕食までにはまだまだ時間がある。
「ひと潜り行っておこうかな」
初日だからって休むつもりはなかった。
僕は自分のユニークスキル『迷宮発見』を発動する。
「お、結構近いね」
するとすぐ近くに異空間ダンジョンの反応があった。
僕は目の前に表示されたナビゲートのための矢印に従って部屋の中を歩く。
「ん?浴室かな?」
辿り着いたのは浴室だった。
シャッと湯船の前にあったカーテンを開くと、その先に真っ暗な闇があった。
異空間ダンジョンの入り口だ。
「まさか部屋内にあるとは。これはラッキーだね」
他人の部屋の中に異空間ダンジョンがあった場合って、透明化や透過、そして気配遮断などのスキルを使って潜らなければいけないから面倒なんだよね。
「さて、今回の異空間ダンジョンのランクはいくつかな?」
僕は目の前の黒い闇に手を伸ばしながらつぶやいた。
異空間ダンジョンにも、現実に存在する『普通のダンジョン』と同様にランクというものがある。
一つの例外もなくたったの一階層のみから構成される『異空間ダンジョン』は、ランクが違えば、出現するモンスターの強さも段違いになる。
「なるべく強いダンジョンだといいな。低ランクダンジョンはもう飽きた」
僕が一番最初に発見し、潜った『異空間ダンジョン』のランクはFだった。
あれから僕はいくつもの『異空間ダンジョン』を発見しては、挑んできた。
『異空間ダンジョン』は、いつどこに出現するかわからず大抵の場合がF〜Bランクの間だ。
Aランク、そしてSランクの『異空間ダンジョン』はかなり貴重で見つけるのが困難である。
「Sランクなんて贅沢は言わないから、AランクかせめてBランク以上であって欲しいな」
そんな願いとともに僕は『異空間ダンジョン』へと足を踏み出した。
視界がブラックアウトし、浮遊感が全身を包み込む。
『異空間ダンジョン』に入った時のこの独特の感覚にも、もう慣れた。
「着いたかな?」
地に足がついた感触。
僕は『異空間ダンジョン』に入れたと確信し、ゆっくりと目を開く。
『ギョロオオオオ…』
「ん?」
目を開いてすぐ、僕な自分の目の前に体長十メートルを超える巨大なモンスターがいることに気がついた。
足も腕も巨木のように太い。
手には棍棒。
一つ目がはるか頭上から僕を見下ろしている。
『ギョロォオオオ…!!!!』
その一つ目の怪物……トロールが、巨大な棍棒を無造作に振り上げた。
狙いはもちろん僕だろう。
低い唸り声が、空気を伝播してビリビリとダンジョン内に振動をもたらす。
「へぇ…」
ブォンと空気を切り裂いて眼前に迫るトロールの棍棒。
僕は思わずニヤリと笑った。
「ラッキー。Sランクダンジョンだね」
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