第21話 自己紹介


探索者育成高校の入学式は退屈そのものだった。


早い話が、あまり新入生を歓迎しようというムードがなかった。


入学式会場に一挙に集められた僕たち新入生は、この学校の校長を名乗る白髪の同人からひたすら校訓などの退屈な話を聞かされた。


「諸君らの役目は在学中、ひたすら探索者としての力を磨くことである。それをまず第一の考えるのだ。それ以外を優先することは基本的に許されない。即刻他の高校へと移ってもらう。まずそのことを肝に銘じてほしい」


校長はずっと同じような話を永遠繰り返した。


そして一時間くらいがたち、ずっとたったまま話を聞かされている周囲の新入生たちが明らかに苛立ち始めたところでようやく話を締めくくり、壇上を降りた。


「それではこの後は各クラスに移動して担任によるカリキュラムの説明があります」


入学式会場を後にした俺たちは、それぞれのクラスに移動することとなった。


「おぉ…!」


「広いな…!」


「すげぇ…」


教室にたどり着いた入学生たちは思わずそんな声を漏らしていた。


僕自身、教室一つの広さと新しさに驚く。


きっと一年ごとに教室内部の塗装などを刷新しているのだろう。


さすが政府が力を入れて運営している高校なだけはある。


「それでは席につけ。まずは一年間の大まかなカリキュラムを説明する」


座席表に従って割り当てられた席に僕たちは座った。


「俺はこのクラスの担任、岡部だ。一年間よろしく頼む」


担任の体育会系っぽい男性教諭がクラス全体を見回しながらそう言った後、ハキハキとした声でカリキュラムを説明し始めた。


新入生たちは真剣そうな表情で岡部の話に耳を傾けている。


「案外普通なんだな」


一年生の大まかなカリキュラムを聞いて僕が抱いたのはそんな感想だった。


もっとこう、厳しめの命を落としかねない授業が組み込まれているのかと思ったが、そうでもなかった。


まぁ、一年生の間は座学を中心に探索者としての基礎を作るということなのだろう。


「一年間のカリキュラムはだいたいこんな感じだ……それじゃあ次に、一人一人自己紹介をしてもらう。右の列から順番に、名前とスキルランク、それから将来の目標を語ってもらおうか」


一年間のカリキュラムの説明が終わった後は、順番に自己紹介ということになった。


新入生たちはそれぞれ、自分のスキルランクと将来の目標、それから人によっては趣味や好きな食べ物などを入れて自己紹介を行っていく。


「み、南中学出身の早乙女恵里です…!す、スキルランクはAですけど、治癒系で、その、あんまり強くなくて……だから、三年間の在学中に戦闘力も磨くのが目標です…!よろしくお願いしまひゅ!」


僕の前に自己紹介をした生徒の中に早乙女もいた。


どうやら同じクラスのようだ。


緊張しすぎて声は震えていたし、最後は噛んでいた。


くすくすと笑いが起きる。


早乙女は真っ赤になって腰を下ろした。


そんな感じでどんどん行われていく退屈な入学生たちの自己紹介を聞いているとやがて僕の番が回ってきた。


「次。そこのお前」


「はい」


岡部にさされて僕は立ち上がる。


「雨宮裕太です。出身は北中学。スキルランクはGです」


「は?」


「え?」


「ん?」


あちこちでそんな声が上がった。


「おい、聞いたか?」


「Gランク…?」


「冗談だろ?」


「Gランクって最低のFよりしたの…?」


生徒たちがヒソヒソと噂をしながら、僕をチラチラ見てくる。


「どういうことだ?」


「Gランクでこの高校に入学するなんてあり得るのか?」


「わからん…きっとインチキでもしたんだろ?賄賂とか」


「あぁ…実家が金持ちのパターンか…」


わかってはいたことだけど、スキルランクを告げた途端クラスメイトたちの間に僕を疑うような視線が向けられた。


賄賂だ、インチキだ、裏口入学だ、などといろんな憶測がこちらまで聞こえてくる。


「静かにしろ」


ざわつく生徒たちに岡部がピシャリといった。 


しんと静まり返る教室。


僕は彼らの反応を気にせずに自己紹介を続け

る。


「趣味は特にありません。強いていうなら、探索者に関する知識集めとかでしょうか。後は、将来の目標か…ええと、そうですね」


僕はしばし逡巡した後に、別に隠す必要もないかと思い、正直に自分の将来の目標を口にした。


「僕の将来の目標は世界一の探索者になることです」


「「「「「ぶっ!?」」」」」


直後、クラスメイトたちが吹き出し、一斉に腹を抱えて笑い出した。

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