第20話 スキル警察
「ん?どこか怪我してるの?」
いつまで経ってもぼんやりとして呆けている少女に僕は再度声をかける。
「あっ、すみません!」
少女は我に帰ったように慌てて僕の手をとった。
「た、助けてくれてありがとうございました…!私、早乙女恵里って言います…!その今日から探索者育成高校に通うことになった…」
「君も新入生なのか。僕もだよ」
「そ、そうだったんですね…!」
少女……早乙女恵里の表情が仲間を見つけ安心した時のそれになった。
「一応聞くけどこの二人、知り合いじゃないよね?」
僕は地面で伸びている二人を顎でしゃくってきいた。
早乙女はブンブンと首を振った。
「ま、全く知らない人です!大切な入学式の日にいきなり絡まれて…いうことを聞かないと俺たちのスキルで痛い目見せるぞって…」
「それは大変だったな。入学日早々にスキル犯罪に遭うとは」
「はい…」
スキル犯罪。
それはスキルを使った犯罪全般を指す言葉だ。
この世界にダンジョンが出現し、人々にユニークスキルを始めとしたスキルが発現してから、スキルの力を使った犯罪が爆増したという。
そのため政府は急いでスキル関連の犯罪を取り締まる法整備と警察組織の構築に着手した。
スキル関連の犯罪を取り締まる警察組織を俗にスキル警察と呼んだりもする。
「一応スキル警察に連絡を入れておこう。この二人はしばらく起きないだろうし、監視カメラに一部始終は捉えられているだろうからね」
僕は近くの電信柱に設置された監視カメラを指差しながら言った。
「そ、そうですね…!通報しないとまた次の犠牲者が出ちゃうかもしれないですし…!」
僕は携帯端末を使ってスキル警察に通報した。
すると監視カメラの映像を参照し、必要であればすぐに二人の身柄を拘束すると言われた。
スキル警察に無事に通報を終えた僕は早乙女へと向き直る。
「これでOKかな。多分こいつらは拘置所にぶち込まれることになると思う」
「な、何から何までありがとうございます」
「別にいいよ。でも、ちょっと疑問だな」
「…?何がです?」
僕は少し引っかかったことを早乙女に尋ね
た。
「早乙女さんは仮にも探索者育成高校の入学生なんでしょ?この程度の連中なら君一人で対処できたんじゃないの?」
二人にはそこまで洗練された戦闘技術があるようには見えなかった。
探索者育成高校の入学生なら、こんな二人ぐらい自前で対処できてもおかしくない。
「無理なんです…私のユニークスキルじゃ…」
早乙女が悲しそうに首を振った。
「わ、私のユニークスキルは癒しの能力なんです。だから…癒す力はあっても戦う力はなくて」
「ああ、なるほどな」
「私自身には戦闘能力はほどんとありません。実技試験でも身を守るので精一杯でした。でも私のユニークスキル『完全治癒』はAランクの治癒スキルでかなり珍しいんです。私、これのおかげで探索者育成高校に入学できたんです」
「そうだったのか」
そう聞いて納得が言った。
どうやら早乙女のユニークスキルは直接戦闘向きではなかったらしい。
「…軽蔑しないんですか?」
早乙女が恐る恐るきてきた。
「何が?」
僕は首を傾げる。
「お前はただ単に運が良かったから探索者育成高校に入ることができただけだって…実力じゃなくてスキルのおかげだって……合格してからいろんな人にそう言われてきたから…」
「別にそうは思わないな。スキルだって立派な実力のうちだよ?」
「…っ!?は、はい…!」
早乙女がちょっと表情を明るくした。
「嬉しいです。そんなに真っ直ぐ誉められたのは初めてです」
「…そうなの?」
それはちょっと周りの環境が悪すぎるんじゃないだろうか。
「まぁ、とにかく入学できたってことは君の実力が認められたってことだと思う。誇っていいと思うよ」
「は、はい…!」
「そんなことよりも、時間が押してる。早く入学式に向かおう」
「…っ!?あ、本当だ…!急がなきゃ…!」
腕時計に目を落とした早乙女が、焦り出す。
僕たちは早足で探索者育成高校へと向かった。
「わ、私たち、同じクラスになれるといいですね…!」
「そうだね」
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