第19話 スキル犯罪


「俺たちの邪魔をした罪は重いぜ?」


「おいガキ。てめーみたいな生意気がでしゃばるとどうなるか教えてやるよ」


関節をポキポキと鳴らしながら僕に近づいてくる柄の悪い二人。


「あ、あの…」


二人の背後では先ほどまで襲われていた少女が涙目で僕のことをみつめていた。


「わ、私のことはいいですから…逃げて…」


「大丈夫。僕はこんな奴らに負けないよ」


自分ために他人が犠牲になることが嫌だったのか、僕に逃げるように言ってくる少女に僕はにっこりと笑ってそう言った。


「テメェ!!」


「ぶっ殺す!!」


こんな奴ら呼ばわりが気に食わなかったのか、痺れを切らしたらしい二人組が襲いかかってくる。


迫り来る拳。


どちらも僕の顔面を狙ったものだ。


「遅い」


あくびが出るようなスピードのそれらを、僕はパシッと両手で受け止めた。


「「なっ!?」」


二人が驚愕に目を見開く。


僕は彼らに向かって忠告した。


「これ以上はやめておいた方がいい。後悔することになるよ?」


僕だって自分より弱い奴を痛みつけたくはない。


だから引き下がるチャンスを与えてやった。


「へぇ?」


「少しはやるようだな」


だが、二人は一度は驚きはしたものの俄然やる気になったよだ。


「はぁ…やれやれ…」


どうやらこの二人は徹底的にやらないと理解しないタイプらしい。


僕はため息を吐く。


「喜べガキ。ちょっとはやるお前に免じて俺のスキルをお披露目してやるよ…!!」


そう言った片方の男が、自らのユニークスキルを使用した。 


「ユニークスキル……『怪力』!!」


「ん?」


男の腕や足が、目に見えて太くなった。


体が一回り大きくなり、視線が高くなる。


「くはははは!!見たか!これが俺のBランクユニークスキル『怪力』!!この状態の俺の拳は岩でも砕くぞ!?」


「へぇ、そう」


「さあ、土下座して命乞いするなら今だぞ!?」


「その必要は感じないかな」


「…っ…そうかよ…!なら死ねよ…!」


拳が僕に向かって振るわれる。


先ほどよりも威力も速さも数段に上がった拳だ。


バゴォオオオン!!!


「へへへ…これで全身骨折だぜ…!」


男の拳が僕の体の中心に命中した。


仕留めたと確信した男が、拳を引いて笑いを漏らす。 


「何かしたか?」


「…っ!?なんだと!?」


全くと言っていいほどダメージを受けなかった僕は、変わらず男を見上げる。


男は驚いた表情で数歩後ずさった。


「嘘だろ…岩をも砕く俺の拳が…どうして…?」


「レベル差だよ。スキルの力如きじゃ覆せないレベルの差」


男のユニークスキルはそれなりに強力なものだった。


おそらく使用するだけで筋力を数段に跳ね上げる強化系のユニークスキルだろう。


しかし、そんなスキルを持ってしても僕の身体強度の方が上回った。


圧倒的なレベル差が、男のユニークスキルを無きものにしたのだ。


「クソ…あ、あれをやるぞ…!」


「お、おう…!」


狼狽えた男は、僕を指差してもう一人にそんな指示を出した。


「お、俺たちの合わせ技を見せてやる…!これで倒れなかった奴はいねぇ…!」


「泣いて謝ってももう遅いからな!?」


「へぇ。見せてみろよ」


僕はちょっと期待して二人の出方を見る。


「ゆ、ユニークスキル『バインド』!!」


もう一人の男が僕に対してユニークスキルを発動した。


「ん?」


若干だが体が重くなったような感覚。


おそらくこれは拘束系か何かのスキルだろう。


「くはは!!これで身動きは封じられた!!兄貴!!やっちまってください!!」


「まかせろ…!これでタコ殴りだぜ…!ユニークスキル『怪力』!……うおおおおおおおおおおおおお!!!死ねやぁああああああああああああ!!!」


拘束スキルを僕に対して使った後、再度『怪力』スキルによって僕に対して無数の拳が繰り出される。


「はぁ…やれやれ…」


僕は強化されたとてやはりスローモーションにしか見えない男の拳を全て最小限の動きで交わした。


「なぁ!?」


「嘘だろ!?」


男たちは二人同時に驚いた。


「お、俺の拘束スキルが通用していない…?」


「お、俺のラッシュを全て避けやがっただと…?」


「さっきも言ったろ。僕と君らではレベルに差がありすぎる。多少スキルで強化したところでその差は埋まらない…そして……レベル差が大きすぎると、拘束系のスキルは意味をなさないことが多い」


「「…っ」」


「勉強不足だね。それじゃあ、僕のターン」


「なっ!?」 


「ちょっとま」


何か言いかけた二人の背後に一瞬にして回った僕は、二人の首筋に手刀をお見舞いした。


「あぐっ!?」


「ごふっ!?」


二人はそれだけで白目を剥いて気絶した。


「はぁ…やれやれ…」


ため息を吐いた僕はパンパンと服についた埃を落として尻餅をついたままの少女に手を差し伸べた。


「大丈夫?怪我はないかな?」


少女は僕の手を取ることなく、ぼんやりと僕の顔を見つめていた。

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