第18話 入学日


「まさかうちの裕太があの探索者育成高校に受かるなんてな…」


「うふふ…似合ってるわよその制服。裕太」


あれからさらに数週間後。


無事に探索者育成高校に合格した僕は、制服姿で入学式へと向かおうとしていた。


朝。


玄関から家を出ようとした僕を、両親が見送る。


「お前がGランクスキルを授かった時はどうなるかと思ったが……立派に成長してくれて嬉しいぞ裕太」


「本当よ。ランクの低いスキルでよくここまで頑張ったわね、裕太。素晴らしい努力家だわ」


「ありがとう二人とも。僕はもう行くよ」


僕はそんなことを言ってくる両親に手をあげて別れを告げる。


二人が目元に手を当てて涙ぐんだ。


「なんだか感慨深いなぁ…あんなに小さかった裕太がもう高校生か…」


「ずっとこの家で育った裕太はこれから寮で暮らすのね……お母さん寂しいわ」


「いや、大袈裟すぎるよ二人とも。週に一回は学校の外に出る許可が降りるんだし。その時にいつでも会えるだろ」


「それでも寂しいものは寂しいんだ!」


「ああ、裕太!やっぱり行かないで!!地元の普通の高校に通」


「さよなら」


いい加減面倒臭くなってきた僕は、さっさと家を後にした。


やれやれ…。


基本的にいい人たちなんだけど、ちょっと過保護気味なのは困りものだ。




「さて、ようやく僕はここまできた。夢の実現に着実に近づいているな」


両親に別れを告げた僕は、制服姿で探索者育成高校までの道のりを歩く。


ようやくだ。


ようやくここまでこれた。


僕のユニークスキルの真価がわかったあの日から僕はずっと努力をしてきた。


それはひとえに『世界一の探索者』になるためだ。


探索者育成高校に入学したのもそのためだ。


国のサポートを受けて、僕は一流の探索者になる。


そこからさらに努力を重ね、いずれは世界に名の轟く探索者に。


小さい頃に胸に抱いた夢を叶えるのだ。


「これからは亜空間ダンジョンだけじゃなくて、普通のダンジョンにも潜らなきゃね」


これまで僕は、自分のユニークスキル『迷宮発見』でのみ見つけられる『亜空間ダンジョン』でのみモンスターと戦ってきた。


それは、現在日本にあるほとんどの『普通のダンジョン』が、国の管理下にある、子供が一人で入ることのできないシステムになっているからだ。


けれど、これからは違う。


探索者育成高校に入学すれば、一人前の探索者として認められ、それらのダンジョンへ一人で立ち入ることもできるようになる。


つまりこれまでより多くのモンスターと戦う機会があるということで更なる成長が見込める。


「やってやる…僕にならできる…いや、僕にしか出来ない。僕だけのユニークスキルで、僕は最強の探索者に…」


「きゃああっ!?やめてくださいっ!?いやっ、離して…!」


「げへへ…いいじゃねーかよ!!」


「嫌がるんじゃねぇ!!こっちこいよ!!俺たちと楽しいことしようぜ!?」


「誰か助けてぇえええええ!!!」


ぼくの門出を邪魔する無粋な声と、切羽詰まった助けを求める声がどこからか聞こえてきた。


「やれやれ…朝っぱらからなんなんだよ全く…」


調子を狂わされた僕は頭をガシガシと掻きながら声の下方へ向かう。


「た、助けて…!」


「暴れんじゃねぇ!!」


「ちょおっと、俺たちについてきてもらうぜ…?へへへ」


「なんだあれ」


そこでは一人の少女が、二人の男に絡まれて身動きを封じられていた。


少女は僕と同じ制服をつけている。


つまり探索者育成高校の生徒ということだろう。


そしてそんな少女を捕まえて連れ去ろうとしている男二人は、明らかに堅気ではないような柄の悪そうな見た目だった。


「おい、君たち…なにをしているんだ?」


流石に見過ごすことができず、僕は彼らに声をかける。


「ちっ…誰かきたぜ…面倒くせぇ…」


「おい、うせろガキ…!」 


二人は僕に凄みを効かせてくる。


だが、僕は引き下がらない。


「事件のようなら警察を呼ぶけど?」


そう言って携帯電話を取り出してみせた。

これで諦めるだろう。


そう思ったが違った。


「こいつ…」


「ガキが…ぶっ殺してやる…」


なんと二人は少女を離して僕の方へとやってきた。


「ん?何かな?」


「何かな?じゃねぇ。俺たちの楽しみを邪魔しやがって…」


「くだらねぇ正義感で行動するとどうなるか、思い知らせてやるよ」


ベタな台詞と共に二人が僕を囲む。


「やる気?僕は構わないけど」


どうやら二人は、少女誘拐を邪魔した僕を痛い目に合わせる気のようだった。






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