第17話 Sランクスキル持ち、黒崎美久


それは鈴の音のような綺麗でよく通る声だった。


受験生たちが一斉に声のした方向を見る。


そこには、黒髪ロング、黒ストッキングの美少女が立っていた。


「ん?誰だ?」


僕が首を傾げる中、他の受験生たちがひそひそと噂する。


「おいみろあれ…」


「ああ、間違いない…」


「黒崎美久だ…!」


「マジかよ…Sランクスキルの黒崎美久か!?」


「噂には聞いてたけど……マジでかわいいな…」


「あんな子が探索者育成高校を受験するのか…」


受験生たちの声を聞くに、どうやらその少女は有名人のようだった。


「みっともないわよ、あなたたち。力あるものの努力を否定するなんて……そんなのただの僻みでしかないわ」


突然乱入してきたその黒髪の美少女は、僕をレベリングだなどと非難していた生徒たちに向かってピシャリとそういった。


シーンと静まり返る受験会場。


誰も少女に言い返すものはいない。


それもそのはず、その少女のものいいには有無を言わせない迫力みたいなものがあった。


「そこの人は決してレベリングによって強くなったわけではないわ。私にはわかる」


「「「「…」」」」


「それは私が彼と同じステージにいるから。彼はきっと血反吐を吐くような努力をしたんだと思う。私と同じように」


「「「「…」」」」


「そんな彼の努力を蔑むことは私が許さないわ。いい?」


「「「「…」」」」


受験生たちがバツが悪そうに俯いた。


「散りなさい」


美少女がそういうと、まるで叱られた後の子供みたいに、項垂れてその場を離れていった。


「なんだこれ」


僕は呆気に取られて少女を見る。


少女は僕の方まで歩いてきて、まっすぐにこちらを見据えてきた。


「出過ぎた真似だったかしら?」


「いや、別に」


正直言って少しスカッとした。


彼女のいうように僕は、自分のユニークスキルの真価に気づいたあの日から、血反吐を吐くような努力をした。


何度もダンジョンの中で死にかけて……いや、実際に死んで、幾度もの死を乗り越えて、その上で現在の力を手に入れたのだ。


そのことを他の受験生たちに知らしめてくれた彼女には若干だが感謝もしている。


まあ、ただ一つ気に食わないのは、彼女が自分と僕を同じステージに立つものといったことか。


悪いが僕自身は目の前のこの少女と同格だとは思っていないが。


「そう。もし迷惑だったらそう言ってくれて構わないわ。でも努力を否定する行為が私は許せなくて。私にはわかるの。あなたが努力によってここまできたことが」


「はぁ」


「あなたの戦い、見させてもらったわ。とても素晴らしかった」


「…ああ、うん」


「あなたはきっと合格するでしょうね。そして私も当然合格する。授業が始まったらまた会いましょう。もしかしたら同じクラスになるかも」


「…はぁ」


「それじゃあね」


自分の言いたいことを好きなだけ喋ったその少女は手を振って消えていった。


「…?何が目的だったんだろうか?」


単なるお人好し、ってことでいいのか?


彼女が一体なんの目的で僕を庇ったのかはわからないが、しかし彼女が現時点で名声を得る程度には『強い』ことは確かだ。


一応このことは記憶に留めておいた方がいいだろうな。


「帰るか…」


なんにせよ、実技試験は無事に終えた。


試験を終えた生徒は帰っていいことになっているから、僕はもう帰宅するとしよう。


「やれやれ…」


予想外の出来事に僕はため息を吐き、試験会場を後にしたのだった。


 

「ああ、よかった裕太!!無事だったんだな…!」


「裕太が命を落としたらお母さんどうしようかと…」


僕が家に帰ると、両親がそう言って抱きついてきた。


どうやら彼らは僕が実技試験に落ちて、あわや命を落とすとまで思っていたらしい。


まあ、彼らは僕の本当の実力を知らないし、僕が探索者育成高校を受験すると告げた時は猛反対していたからな。


この反応も仕方がないことだろう。


「それで、どうだったんだ?試験の方は…」 

「結果なんてどうでもいいです。裕太が無事に帰ってきてくれただけで…」


「試験は無事にクリアしたよ。試験用モンスターは倒したし多分合格だ」


僕がそういうと両親が顔を見合わせた。


「…そうか。それはおめでとう」


「…裕太。色々あったと思うけど、今はゆっくり休んでね」


「…いや、受かったって言ってるでしょ」


二人は僕が合格したことを全然信じていなかった。


多分僕があまりに凄惨たる試験結果に耐えられなくて、嘘を言ったと思っているのだろう。


二人とも僕を気遣うように部屋で休むことを勧めてくる。


「やれやれ…」


僕はため息を吐いて、二階の自室へと上がったのだった。




その二週間後。


合格通知が家に届き、両親は死ぬほど驚いていた。

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