第7話 ゴブリンウィザード


ゴブリンアーチャーから奪った矢を構えながら、僕は慎重に洞窟の中を進んでいく。


『グゲ…!』


『グギ…!』


前方に現れた二体のゴブリン。


これまでなら、どちらか一匹になるのを待ってから戦わなくてはならなかったが…


「やってみるか…」


今の僕は遠距離攻撃の手段を持っている。


一気に複数体のゴブリンを倒すことも可能かもしれない。


そう思って、僕は隠密スキルを使い、ゴブリンたちに接近していく。


ゴブリンたちは僕の存在になかなか気づかない。


「よし…この辺でいいかな…」


ある程度までゴブリンに近づいた僕は、その場でしゃがんで弓矢を構える。


そして二匹のうちの一匹の眉間を狙って矢を放った。


シュッ…!!


グサ…!


『グゲッ!?』


狙撃スキルの恩恵のおかげで、僕のはなった矢は正確にゴブリンの眉間をとらえた。


矢に頭蓋を貫かれたゴブリンは一瞬にして絶命し、地面に倒れる。


『グゲー!?』


仲間の死に、もう一匹のゴブリンが鳴き声をあげ、暴れ出す。


流石にあれだけ動いている的を矢で穿つのは難しいだろう。


「うおおおお…!!」


僕は弓矢を置いて、残ったゴブリン一匹に向かって突進していく。


『グゲ…!?』


僕は一匹になったゴブリンに馬乗りになり、首絞め攻撃を食らわした。


ボキッ…!


「え…?」


『…』


僕がゴブリンに馬乗りになってその細い首に力を加えると、鈍い音とおもにあっさりと骨が折れた。


沈黙するゴブリン。


「レベルアップのおかげ、かな…?」


どうやらレベルアップによる身体能力の上昇で、僕はゴブリンの骨を素手で折れる程度の筋力を獲得したらしかった。


「レベルは上がったかな…?」


僕は早速ステータスを確認する。


====================


名前:雨宮裕太

年齢:10

職業:小学生


レベル:11


攻撃:750

体力:800

敏捷:700

防御:760


ユニークスキル:『迷宮発見:ランクGreat』


スキル:『自動セーブ&ロード』『痛覚耐性』『隠密』『攻撃軌道予測』『狙撃』


====================



「上がったレベルは一だけか…」


二体のゴブリンを倒したが、今回上昇したレベルは一のようだ。


レベルは高くなるほどに上がりにくくなる。


これはこの世界の常識であり、最初のようなレベルの上昇幅を得られないのは仕方がないことだろう。


「でも、使えるな。この戦い方…」


今までは僕には近接戦以外の攻撃手段がなかった。


けれど弓矢と狙撃スキルを手に入れたことで、戦い方の幅が広くなった。


今後は必ずしも単体のゴブリンのみと戦う必要はないと思う。


『隠密』スキルと『狙撃』スキルをうまく組み合わせて遠距離攻撃と近接戦闘を組み合わせれば、レベルアップによる身体能力向上もあり、今後は複数のゴブリンに一度に対処できるようになるはずだ。


「な、なんか憧れの探索者に近づいている気がする…」


Gランクのユニークスキルを授かってしまったあの日、僕は一瞬探索者の夢を諦めかけた。


だが、今、再び自分の中に希望が芽生えた気がする。


もし…ここから脱出することができたら、僕はもう一度本気で探索者を目指してみてもいい気がする。


「なんとしてでも出るんだ…ここから…」


僕はそんな決意を胸に洞窟の奥へと進んでいった。



「あれは…!?もしかして出口…!?」


思わずそんな声を出してしまった。


あれからさらに一時間ほど、ゴブリンを倒しながら洞窟の奥を目指した僕は、出口のようなものを発見していた。


薄暗い洞窟に差し込む光。


予想でしかないけど、あの光を目指して進めばこの洞窟から出られるような気がする。


「よし…あいつを倒して、このダンジョンを出るぞ…!」


出口と思しき光の前には、一匹のゴブリンがいた。


僕は最後の敵を倒すべく、そのゴブリンに狙いを定める。


「狙撃…!」


狙撃スキルを使い、弓矢を放った。


カァン!!


「えっ!?」


眉間をとらえたと思った僕の矢は、直前で何かに弾き返された。


「ば、バリア…!?」


『グゲ…!!』


そのゴブリンの前に、何か透明のバリアのようなものが展開されていた。


それが僕の矢を防いだのだ。


あれはまさか…


「魔法…と言うことは、ゴブリンウィザード!?」


僕が魔法を使うゴブリン、ゴブリンウィザードのモンスター名を思い浮かべた次の瞬間。


「…っ!!」


視界が真っ赤に染まる。


いくつもの『攻撃軌道』が僕に向かって伸びていた。


僕は慌てて横に転がることで『攻撃軌道』から体を逸らす。


次の瞬間…


ボボボボボボ…!!


「…っ!?」


ゴブリンウィザードが持つ杖の先から、いくつもの火球が出現し、先ほどまで僕の体があった場所を豪速で通り抜けていった。


危なかった。


もしあと少しでもあの場に留まっていたら、僕は攻撃をまともに食らって丸焦げになっていただろう。


『グゲ…!!』


「…っ!」


攻撃を避けられたゴブリンウィザードが、再度僕に杖を向ける。


再び発生する『攻撃軌道予測』の赤い線。


僕はステップを踏み、体を逸らし、また地を蹴って転がることでゴブリンウィザードの魔法攻撃を回避しながらゴブリンウィザードに接近していく。


ゴブリンウィザードは、ゴブリンアーチャーと同じで遠距離攻撃をしてくるモンスター。


ならば定石はやはり、近づいて接近戦に持ち込むこと。


『グゲェエエ…!!』


段々と俺に距離をつめられていることに焦ったのか、ゴブリンウィザードが魔法を連射してくる。


僕は必死になって魔法攻撃を避けるが、距離が近づいてくるに従って攻撃軌道予測が出てから攻撃が来るまでのギャップが埋まってくる。


そして…


「ぐあっ!?」


ゴブリンウィザードの放った一発の火球が、僕の体を捉える。


「ぐ…」


服が燃えて身体が熱い。


多分、骨も折れたと思う。


けれど『痛覚耐性』のおかげで、なんとか意識を保っていられる。


「うわぁああああああ!!!」


ここで逃げたら負ける。


そう思った僕は、気合の声と共に、身体が燃えた状態のまま、ゴブリンウィザードに突進して組み付いた。


「うわぁあああああ!!!」


『グゲェエエエエ!?!?』


そしてゴブリンウィザードに馬乗りになってがむしゃらに殴りかかる。


『グギィイイイイ!!』


「うおおおおおお!!!」


ゴブリンウィザードは、ジタバタと暴れていたが、やがて動かなくなった。


「あちちちち!?」


僕は慌てて体に燃え移った炎を消す。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


なんとか炎を手で叩いて消した僕は、ほとんど焼けてしまった上着を脱いで、ゴブリンウィザードを見下ろす。


ゴブリンウィザードは、顔の形を変えた状態で絶命していた。


「勝った…」


僕はその場で膝をついて、しばらく勝利の余韻に浸った。



〜スキル『火球』を獲得しました〜








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る