第4話 死に戻り。ただし…


結論から言うと、僕がいっときでも抱いた自信はただのまやかしだった。


「あぐ…えぐ…あっ…おっ…」


『グゲゲゲ…!』


『グギィイ!!!』


『グギィイイイイ!!!』


あれから数分後。


僕は三匹のゴブリンからリンチにあっていた。


「あ…やめ…て…死ぬ…死んじゃう…」


地面に転がされ、拳や棒でひたすら殴られる。


掠れた声でゴブリンに助けを求めるが当然応じてもらえない。


…ゴブリンは子供にでも倒せるほどに弱いモンスターだ。


…ただしそれは一匹の場合に限る。


ゴブリンは単体では弱い代わりに仲間意識が非常に強く、連携して戦うことのできるモンスターだ。


だから、数匹集まれば、その脅威度は何十倍にも膨れ上がる。


初めてのレベルアップを経験し、謎の自信と共に意気揚々と進んでいった僕は……あれからすぐに三匹のゴブリンに絡め取られ、現在死にかけていた。


「い…あ…あぁ…」


何度も何度も三匹から殴られるうちに段々と痛覚が麻痺してきた。



〜痛覚耐性を獲得しました〜



頭の中にまたあの変な声が流れるが今はそれどころじゃない。


なんとかリンチから逃れたいのだが、体が動かない。


目の前が段々と暗くなっていく。


『グゲ…!』


『グギィイイイイ!!』


『グギギ…!』


ゴブリンたちは死にかけている僕を嘲笑うかのように飛び跳ねる。


あ、僕はここで死ぬんだ。


意識を失う最後、そんなことを思った。



「……っ!?はぁ、はぁ、はぁ…!?ここは…!?」


気がつくと僕は暗闇の中にいた。


慌てて周囲を見渡す。


先ほどまで僕をリンチしていたゴブリン三匹は忽然と消えていた。


助かったのか…?


僕は自分の体を確認する。


「え…傷が…?」


体中から傷が消えていた。


ゴブリン三匹に袋叩きにされて、僕は全身あざや血だらけになっていたはずなのに…


「ど、どう言うこと…?」


周囲を見渡す。


僕は相変わらず洞窟の中にいた。


「と、とりあえず……ステータス…」


ダンジョンの中で混乱した時は、とりあえずステータスを見て現状を確認しましょう。


確か小さい頃に読んだ探索者入門編という本にそんなことが書いてあったような気がする。



====================


名前:雨宮裕太

年齢:10

職業:小学生


レベル:3


攻撃:180

体力:200

敏捷:170

防御:190


ユニークスキル:『迷宮発見:ランクGreat』


スキル:『自動セーブ&ロード』『痛覚耐性』


====================



「ステータスは……レベルアップした時から変わってない…?」


僕のステータスは初めてゴブリンを倒してレベルアップした時から変わっていなかった。


…いや、一つ変化がある。


スキル欄に『痛覚耐性』と言う見慣れないスキルが追加されている。


「何これ…?どう言うこと?」


僕は混乱し、背後を仰ぐ。


そこには僕が初めてのレベラップの際に倒したゴブリンの死体が転がっていた。


「えっと……つまりこれは…」


信じられないけれど、これはつまり…


「時間が…巻き戻った…?」


そう解釈するほかない。


それ以外に何があると言うのだろうか。


どうしてかはわからない。


だが僕は、ゴブリン三匹に殺されたと思ったらいつの間にか一匹目を倒した直後に時間が巻き戻っていた。


「もしかして……これはスキルのおかげ…?」


『痛覚耐性』のおかげではないだろう。


またユニークスキルの力でもないはずだ。


であれば考えられる可能性は一つ。


いつの間にか獲得していたスキル『自動セーブ&ロード』の能力以外に考えられない。


「死ねば……時間が戻るってこと?ゲームみたいに…」


僕はビデオゲームを頭の中で思い浮かべた。


よくあるのは、死ぬと死ぬ直後に時間が巻き戻ってやり直しになるゲーム。


これはつまり、それと同じことが現実で起こったってことだろうか。


「こ、こんなスキルってあるのかな…?聞いたことないや…」


探索者関する知識を集めた僕からすると、スキルってのはこう言うものじゃなかったはずだ。


本来戦闘を補助したりモンスターを索敵するのがスキルの役目で、こんなスキルがあるなんて聞いたこともない。


「で、でも…おかげで助かったわけだし…」


色々わからないことだらけだが、僕はひとまずまだ生きていることを喜ぶことにした。


「よし……今度は油断しないぞ」


一度死んだことで、頭が冷えた。


もう無駄な自信は抱いたりしない。


いつ命を失うかわからないと言うことを肝に銘じて、慎重に進んでいく。


「ゆっくりだ……必ず出口があるはず…」


僕はそう自分に言い聞かせながら暗がりの中を進んでいく。


『グゲゲ…!』


『グギィイイイ!!』


『グギギ!!』


「…っ」


前方に向かって進んでいると、三匹のゴブリンに遭遇した。


…間違いない。


時間が巻き戻る前、僕を殺したゴブリンたちだ。


「三匹同時じゃ絶対に勝てない……一匹ずつじゃないと…」


同じ間違いは繰り返すつもりはなかった。


僕はまだこちらの存在に気づいていないゴブリンたちが、一匹になるのをひたすらまった。



〜スキル『隠密』を獲得しました〜



また頭に変な声が流れた。今は黙っていてほしい。


『グゲー…』


「…!」


きた…!


チャンスだ…!


三匹のうち二匹が奥へと消えて、一匹だけがその場に残った。


「よし…これなら…」


僕は消えた二匹が完全にいなくなったことを確認してから、残された一匹にゆっくりと近づいていく。


そして…


「うわあああああ!!!」


『グゲッ!?』


馬乗りになり、一匹目を倒した時のように首絞め攻撃を喰らわせた。

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