第8話さらば愛しき時間よ(涙)
9月6日(月) 学校 1限終了直後
「なあ達也?毎朝、椎名を連れてくるけどどういう経緯なん?」
話しかけてきたのは最初の席順で近かったから話し始めたがなんだかんだでずっと連んでいる横瀬天使、勘違いしてはいけないこいつが天使のような奴ではない。名前が天使、読みはミカエルつまり横瀬ミカエルが正しい名前だ。
「成り行きでしかないよ。ミカエル、ミカエルは羨ましいと思うの?」
「やめろーー、俺をミカエルと呼ぶな!俺は横瀬!ただの横瀬だ!」
今時、キラキラネームなど珍しくもない。小学校から各クラスになんて読むかわかるっか!みたいな名前はいた。こいつもその一人にすぎない。
「悪かったよ横瀬、でも本当にただの成り行きでその場の空気が俺の反論を許さずにただ黙殺されただけにすぎん」
「おう……なんか変わったな…なんか哀愁が漂うってこんな感じなんだと実感したわ」
横瀬のそのセリフは達也の心に深く刺さった。
(そうかこれが哀愁か…)
「その話!うちらも混ぜてー」
「佐々木に相馬もやっぱり気になるよな?」
話に混ざってきたのは佐々木綾と相馬亜美、勘のいい人は気づくかもしれない。何を隠そうこいつらが初代椎名係の二人である。
「ア…椎名の取り巻きがそば離れていいのか?」
名前呼びしそうになったが飲み込んだ達也、気づかれてはいないのか自然に会話は続く。
「あれ…爆睡中で暇だかね。アリアと昨日遊んだんだけど、あいつ今年のトレンドの服着てきたんよ」
「いや?それ普通じゃないの?」
横瀬の疑問は当然だ。だが椎名アリアは普通じゃない。
「アーリンはあんまその辺気にしないとういうか…」
(相馬よ。気持ちはわかる言えないだろうがそれがすでに答えだ。なんとなく察した連中が気まずそうにしてるだろが!!)
「やっぱ男じゃないの?女子ってそういうイメージある」
(横瀬―――余計な燃料を入れるな!!空気は変わったが今度はクラスの連中が盗み聞きする気満々で浮き足立ってるだろうが!)
「アリアに男?ないない昨日うちらも男できたん?って聞いたけど『そういうのわかんない』とかぬかしおるし大真面目な顔して」
「アーリンって多分面倒なことはとことんしないタイプ、恋愛とかデート一回で次誘ったら面倒の一言でばっさり」
「うわ、想像できるわ」
(俺も想像できたわ)
散々言われるアリア、周りの連中は興味が失せたとばかりもうこちらを気にしていなかった。ただ1人を除いて。
「おう…お前ら椎名と仲良い割に毒吐くのな……」
横瀬の女子に対する希望と憧れが崩れて行く音が幻聴として聞こえてきそうではあるが誰もフォローなどしない。
「あははー、そうだ今日アリアと遊び行こうと思うんだけどあんたらも行く?新旧椎名係としての親睦会的な?」
「あー、すまん。誘いは嬉しんだが今日バイトでな、バイト前にやんなきゃいけないことあるから無理だわ」
やることとはアリアの晩飯作りである。当然詳細は話せない。
「そっか…ミカエルは?」
「横瀬!達也が行かないなら男俺しかいないじゃん!居心地悪いわ!」
達也の心の平穏は学校にもないのかアリアとの生活はバレればいいネタにされてしまう。達也はこの会話の後、再度気を引き締めた。
放課後 ラフォーレ椿
「とりあえずオムライスでいいかな?」
「ただいま〜」
少し遅れてアリアが帰宅した。この時料理のことを考えてさえいなければ悲劇は防げたもしれない。
「お帰りー晩御飯はオムライス作っとくから勝手に温めてくれ……」
さて玄関におわす方々はそうアリアだけではありません。どうということはありません。同級生の佐々木and相馬です。
「綾も亜美も上がってー、達也はお茶とお菓子お願いー」
「「かいどーーーーーう!!」」
「ノーーーーーー!!!!!!」
ただいま、リビングにて事情聴取実施しております。容疑者はもちろん達也です。
「海堂、うちはこんなおもろ……友達として容認できかねる状況についてきっちり聞きたいだ」
「おい、佐々木!今面白いっていいかけたな?なあ?」
「海堂!私はお前の味方だ!つまりお前が主人公!!」
「ごめん、なに言ってんのかわかんない」
さて、我が家を混乱の渦にした馬鹿、もといアリアはキッチンを物色している。
「達也!お菓子がない!どこ!」
「アリアーーーー!てめぇなにがしたいんだ!このおバカ!」
しゅんとしたアリアから目を離して2人の方へ戻すとニヤニヤした嫌らしい顔をしていた。咄嗟にアリアと呼んでしまったことに気づくと顔を手で覆う。まさに穴があったら入りたい。
「アリアねぇ?なんなん?付き合い出したん?」
「アーリン、海堂は攻略キャラとしては若干弱いかもしれないが物件としては優秀応援する」
当然そういう話になる。逆の状況で見ていたなら黒も黒、ブラックホールで無罪も吸い込まれて消滅しているだろう。
「達也、この2人は私の友達隠し事したくない……」
「アリア……」
殊勝な態度のアリアを見て達也も態度を軟化させる。
「だって漸く友達を家に呼べるようになったんだよ!!」
「おいこら……ちょっと見直した俺の心を返せ!!」
「あのさ?結局どういうことなのさ?」
佐々木も彼氏彼女の空気感ではないと感じたのか揶揄うような雰囲気は消えている。隣の相馬はこの際気にしない。以外でもなんでもないが暴走したオタクは放っておくに限る。
「あのね?1学期の頃はお家のこと話さなかったじゃない?連れて行くにしてもちょっと散らかってて人呼べなかったというか……」
「ちょっと?」
あれをちょっとと言いのけるアリアに呆れつつ続きを促す。
「うーん、ねえ達也?ママに送った写真残ってる?」
「あれね、クリスさんから消さずに時々見せて発破かけてって言われてるからあるよ」
「じゃあそれを綾と亜美に見せて、それを見せないと話進まないと思うから」
あれを他人に見せるってそれほどこの2人を信頼してるのかアリアが単純にアホなのか、達也は後者と断定する。
「じゃあはい……」
「「え゛っ……」」
佐々木and相馬両名はその写真を見て絶句する。
(ですよねーー)
さて、闖入者により晩御飯の準備ができずに時刻は16時20分、バイトに出る時間なので出る。
アリアの晩御飯どうしようか、答えは一つしか無い。正直知り合いにバイト先を知られるのはあまり好まない達也、ファミリーも入るので数人は出くわしたことはあるがいずれも接点があまり無い人たちなので気にならないがアリアを除くこの2人はクラスメイトひょんなことから他に漏れる可能性もある。
「はあ…アリア、晩飯作れてないからなしな!」
「そんなっ!」
「アリア?自分で作んないの?」
「面倒!!」
さすがアリア期待を裏切らない。いや裏切ってるのか?
「みなみに行けばいいじゃん!!」
(チッ、余計なことに気づいたな……)
「「みなみって?」」
嗚呼、オアシスが侵食されて行く絶望感が達也を包む。それは他のものにはわからない。
「達也のバイト先!店長さんにももう一度お礼言いたいしいいよね?」
「はあ、そうだね。わかったよ」
「やったーー、綾も亜美も行く?」
「「行く!!」」
平凡な日常に落胆していた達也もドミノ倒しの如くの変化は堪えていた。平和な日常を思うと自然と遠くを見ていた。
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