第3話乙女を取り戻せ(愛)


ピンポーーン……


「はーい、店長!なんかすいません俺もご相伴に与っちゃって……」


「気にしないの!困った時は頼りなさい!」


「困ってんのは俺じゃないっすけどね…」


 そんな達也の呟きは笑顔のみなみさんに黙殺されながらもお隣の椎名さん家に突撃である。しゃもじは持ってない。


「アリアちゃ〜ん、ご飯よ〜」


(犬かよっ!?)


当然口にはしない、みなみさんは大真面目だから!!


 ドンっ!!ガサガサ!!「きゃーーー」……ガチャリ……


「「……………」」


「いらっしゃいませ?」


 玄関が開かれた瞬間に異臭と開いたドアから覗く異空間、もとい女子部屋、女子力など昨晩から急下降だがついに墜落した瞬間だった。隣のみなみさんからドス黒いオーラが半端ない、蛇に睨まれたカエルの如く動けない。


「アリアちゃん?少しお話ししましょうか?」


「は…はい……」


「達也くんお部屋貸してくれる?それと助っ人呼べたりする?」


「呼びます。そしてこちら鍵になります」


 みなみさんに鍵を献上した。


「ありがと、じゃあアリアちゃんはこっちね?」


 ドナドナされてくアリアを横目にスマホで母を呼び出す。


「母さん?すまん、香奈連れてヘルプ、やばいわ……」


「は?久々に連絡きたかと思えば何よ?わかったすぐいくから」


 そういえば、夏休みに入ってすぐに様子見で妹の香奈を連れてきた以降会うどころか連絡すらしてなかったことを思い出しながら待つこと30分車でやってきた母と妹をで迎える。


「突然すまん!」


「まあいいけど、どうしたの?」


「ドアを開ければわかるよ……」


母が言われるがままドアを開けると異空間が現れる。


「……ちょっと1ヶ月ちょっとでどうしてこんなになるのよ?」


「おれの部屋じゃねーよ!俺は202!ここは201だ!」


「ほんとね、人の家勝手に開けちゃダメじゃない!!」


 母のツッコミについてはスルー、漫才している間に香奈が俺の部屋でのお説教に気づいた。


「ねぇ?お兄の部屋から女の人の声がするんだけど?」


 妹から軽蔑のは入った視線を受けながらもとりあえず昨日からの経緯の説明してお説教部屋、もとい俺の部屋に入っていく。


「達也くん?そちらは助っ人?」


「母の京です。息子がバイトでお世話になってます。こちらは娘の香奈です」


「こちらこそ、真面目な達也くんにはいつも助けられてます。えーと、このような状況については?」


「伺ってます。店長さんに同意です」


 こうして椎名アリアの部屋の掃除『乙女(愛)を取り戻せ!!』(命名母)作戦が始まったのである。


 まず女性陣による衣類回収、洗濯機(達也の部屋の)+香奈による近所のコインランドリー往復、ゴミをまとめ(念のため俺の部屋行き)雑巾がけにetc.


 そうして8月30日昼から31日19時で引越して来た時と同じようになったであろう部屋になった。


「この度はご迷惑をおかけしました……」


夏休みの宿題が終わらない奴が徹夜で宿題する気分になったがそれはそれ、今の議題は今後のアリアである。なにせ生活力ゼロどころかマイナスに振り切れている彼女を放っておくと元の木阿弥なのだ。



「アリアちゃん?お母さんには連絡つくかしら?」


「今あちらは朝ですが母なら起きてると思います……やっぱり連絡しないと……ヒィ!!連絡します!!」


母とみなみさんの圧力がやばい。俺も香奈も苦笑いだ。そそくさとパソコンに向かいオンライン通話でアリアの母が呼び出される。


「あら?アリアちゃんビデオ通話できるようになったのね?」


 アリア母のそのセリフに皆が思ったのは言うまでも無い。


(((つなげるわけないよね)))


「ママ!!ごめんなさい!!」


 そこからは説明のちお察し、お説教である。


「全く、えーとみなみさんに、海堂さん御一家にはご迷惑おかけしました……『乙女(愛)を取り戻せ!!』作戦ありがとうございます?アリアちゃんママはShock♪よ?」


 アリアママ…間違いなくうちの母と同世代ですね。そして母よ、グゥーじゃねーよ。椎名さん首傾げてんじゃん!


「やっぱり北○だったんだ……」


「………(突っ込まんぞ!!)」


「えーっと、アリアちゃんこっちにくる?」


「無理!!英語無理!!」


(ついて行かなかったのはそんな理由かよ!?)


 生活力ゼロ子のアリアがどうして一人暮らしをしようとしたのかはそんな理由だったがもんだの今後である。


「アリアちゃんのひどい生活ぶりを聞くとねぇ?ママも強引にでもこっちに引っ張って来ないとまた迷惑かけちゃいそうで…」


「それは……」


「アリアちゃんのお母さん…私が時々様子を見ましょうか?うちの子は手がかからないので少々つまら……物足りなくて…」


(いまつまらないとか言いかけたよな?)


 母の物言いには物申したいがそれは今はいい、それよりも今地味に俺の一人暮らし心穏やかな平穏が脅かされかけている。


「あぁ、私のことはクリスって読んでくださいな、うーん…流石に頻繁にきていただくのは気が引けます。それにうちの子の場合一週間あれば生活破綻しそうですし」


「ママ!!それはない……とはいえなくもないかもしれなけど」


(そこは否定しろよ!!でも一学期の椎名さんって?)


「それに部屋状況からいってあなた学校はちゃんと行ってるの?」


「そ…それはもちろん」


「達也くん?アリアちゃんは学校ではどうなの?」


「それは……」


 アリアを見れば、言わないでと目で語りかけてくる。がしかし画面越しでもわかるみなみさんにも劣ることのないプレッシャーに俺は屈した。


「登校はギリギリ、半分は遅刻、授業中は健やかに眠ってらっしゃいます!!」


 アリアは絶望した。少女にあるまじき顔になってますがきっと漫画やアニメなら劇画になってる。


「アリアちゃん?あなたに一つ言っておきます。あなたの乙女はすでに死んでいる!!」


(今ネタに行くとこちゃうやろ!母もいいねじゃねーよ)


「こほん…達也くん?」


「はい、なんでしょうか?」


「バイトする気ない?」


「はい?」


 バイトと聞いて俺含む一同首を傾げる。


「朝起こして、ご飯作って学校まで引っ張って行って欲しいのよ」


「ちょっと!!それはまずいんじゃないっすかね椎名さんのお母「クリス」クリスさん」


 アリアママ、もといクリスさんの仰天の提案を前にたじろぐ達也それもそうだろう、女子と付き合った経験すらないのにそんな半同棲のような生活なんぞ無理な話なのだ。


「クリスさん、うちの息子だって男の子ですよ?いくらヘタレでも間違いが起きたらと思うと……」


「京さん……私今回の話しを聞いて思ったんです。女子力ヒデブってるアリアちゃんは嫁の貰い手なんていないと…いっそ間違いで彼氏ができるならそれでいいかなって」


(ヒデブってるって!!不覚にも笑そうになったわ!?娘にはツボったらしいがな!つか自分のことなのにツボるなよ!!)


 ヒデブ、ヒデブ言ってるアリアのことはこの際放っておくことにしてまずい流れをどうにかするべく考えを巡らす達也だがいい考えが浮かばない、そしてトドメとなる提案がクリスさんから告げられた。


「そうだ!!お隣さんじゃ色々不便だし、いっそ一緒に暮らしちゃいましょう!そうすれば達也くんの家賃も光熱費も下がるし、一石二鳥!!ついでにお嫁さんに貰ってくれれば三鳥ね!!」


 とんでもないことを言い出したクリスさんに言い返そうにもこれまでの惨状にさらに母親からの散々のこき下ろしもありこれは達也が折れるしかないような雰囲気が形成されている。


「いや!!流石にまずいでしょ!!椎名さんもなんか言って!!」


「よろしくお願いしますっ!!」


「なんでやねーーーーん!!」


 こうして達也の一人暮らし生活は終了して同棲生活にランクアップして?新学期を迎えることになった。


 この日のことを達也は一生根に持つのだがそれはまた別の話である。

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