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犬丸いぬまる警部と八木刑事は、学校の来賓用の駐車場に車を停めると、職員用のエントランスに急いだ。

すると、エントランスの直近の緊急車両用のパーキングを、2台のパトカーが占領していた。


「まさか、キャリア組に先を越されたか!?」

八木は、アセった声を出した。


犬丸いぬまるは、ゲンナリと舌打ちして、

「バカ! ここに来る途中、救急車両に何度か追い越されただろうが。なにかしらデカい事故が起こったに違いない」

と、植栽しょくさいの枝葉の合間に赤く点滅する非常灯を見つけると、足の向きを変えて、そちらに駆けだした。


迎賓館げいひんかんの前のロータリーには、救急車と消防車が各1台と、救助工作レスキュー車が停まっていた。

それぞれのユニフォームを身につけた隊員たちが、せわしなく右往左往して、どこか途方にくれているようにも見えた。


薄暮の夕空を背景に、地面に点々と置かれた強力な作業用ライトに照らし出されて、豪壮ごうそうな古い西洋館は、巨大な恐竜がうずくまっているような不気味さをただよわせていた。


扉に近づいた犬丸いぬまると八木を、「立ち入り禁止」のイエローテープを周囲に張りめぐらしていた制服の若い警官があわてて止めた。

「こらこらこら、入っちゃダメよ! ヤジウマは帰りなさい!」


「誰がヤジウマだよ、まったく!」

八木刑事は、スーツの胸ポケットから素早く警察手帳を出して中を開くと、警官の目の前に突き出した。


警官は、ハッと姿勢を正して敬礼をすると、

「これは失礼いたしました! まさか、警視庁がお出ましとは。しかも、こんなに早く! いやあ、さすがですねぇ」

と、モミ手でもしそうな調子で扉を開いた。


八木は、マンザラでもなさそうに、フンと鼻を鳴らして、細長い足を威勢よくあげながら屋内に足を踏み入れた。

犬丸いぬまるは、「やれやれ」と小さくタメ息をつきながら、その後に続いた。

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