6-1

犬丸いぬまる警部は、宇佐美うさみ 圭斗けいとを両親の待つ自宅に送り届けると、邸宅を警護する捜査員たちに用心をおこたらぬよう念を押した。


そのまま、すぐに警視庁舎に向かうと、本部のデータベースから大上おおかみ 恭志郎きょうしろうの過去を探る。


大上おおかみが母校の高等部の2年生だった頃、学生寮のルームメイトだった赤音あかね 由卯ゆうという同級生が、ある日こつぜんと謎の失踪しっそうをとげていた。

12年たった今も消息は不明のままだ。


当時の捜査資料から、赤音あかね 由卯ゆうの写真を見つけた。

白い顔のまわりにフワフワしたミルクティー色の巻き毛をまとった、中性的でナイーブな印象の美少年だった。


犬丸いぬまる警部は、彫りの深い目元をけわしくスガめた。

「こりゃ、……圭斗けいとくんに似てるな」


およそ、"そのテ"の邪悪な衝動をこらえきれない残忍なケダモノに限って、嗜好しこうのコダワリが強いものだ。


霊感商法まがいのウサンクサい夢カウンセリングを受けたあと、警部の予想に反して驚くほど生気を取り戻した圭斗けいとは、1週間前の事件の記憶も思い出し、帰りの車中で語ってくれていた。


それによれば、あの日の夕方。

間もなく寮の門限も近く、まるっきり人気ひとけのなかった緑地公園を気まぐれに1人で散歩していた圭斗けいとは、音楽教師の大上おおかみが人目をはばかるようなソブリでウサギ小屋に入っていくのを見かけて、不思議に思いながら近づいた。


すると、大上おおかみが、1匹のウサギの首を片手で乱暴に握りしめながら、ニヤニヤと嬉しそうに微笑んで小屋から出てきた。


ウサギは、なかば窒息ちっそくしているようで、あらぬ方向にアタマをグッタリと落とし、クチからは泡を吹いているようにも見えた。

フサフサとした真ん丸のシッポだけが真っ白な、耳の長い黒ウサギだった。


おそらく大上おおかみは、前日の雷雨で園内の防犯カメラが故障したことを知り、願ってもないチャンスに胸を高鳴らせながら、ウサギ小屋に駆けつけていたのにちがいない。


圭斗けいとは、ガクゼンとして後ずさった。


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